諸田県議は悪くない

異常なマスク不足が続く中、静岡県議会の諸田議員がネットオークションでマスクを高値で売却したことが批判の対象になっています。「議員辞職をすべきだ」という声も多く上がっています。しかし、諸田議員の謝罪会見を見る限り、批判は適切ではないと、私は考えます。ここでは、謝罪会見での説明に嘘がないことを前提に、オークションの価格について考えてみたいと思います。

まず、今回オークションで売却したのは、10年前のMARS騒動の際に大量に仕入れた在庫が残っており、それを売却したということです。10年も前に購入したものの売れ残りですから、〝転売〟と言うには違和感があります。いわゆる「転売ヤー」と言われる行為は、マスク不足が生じてから(あるいはそれを予想して)買い占め、すぐに売却する行為です。それと同列に論じるのは無理があります。

同県議の説明によると、オークションで得た売り上げは888万円で、利益率は50%程度だということです。利益率については、控えめに言っている可能性もありますが、それでも10年間も在庫を抱えていたことを考慮すれば、〝暴利〟というほどではありません。「こういう時なのだから、寄付をしろ」という人もいますが、444万円も寄付することになり、それを強要するのは酷でしょう。政治家だけに、うっかり寄付をすると公職選挙法に抵触する可能性もあります。

マスク不足の折に大量に売却したことが批判されていますが、大量の売却は「価格を押し下げる」効果があります。マスク不足の折に供給をしたことは、マスク不足で困っている人を〝助ける〟行為でもあります。

さらに、ネットオークションで高値売却したということですが、オークションで価格を決めるのは、購入者です。〝高値〟にしたのは購入者であり、出品者が高くしたわけではありません。出品者が上限価格を設定することも可能ですが、そんな必要はないでしょう。むしろ、そうしないことで、本当に必要な人の手に渡っていると考えられます。

インターネットでの売買は、参入はしやすく、誰でも比較的簡単に購入も売却もできます。それだけに、「需要と供給」という経済学の基本的な考え方が反映されやすいマーケットです。フリーマーケットのように出品者側が価格を設定する方式と、オークションのように購入者側が価格をつける方式があります。価格の付け方こそ違いますが、どちらも受給(需要と供給)で価格が変わるといいう点は同じです。

フリーマーケットでは出品者が自由に価格をつけられますが、かなり高い価格では売れ残るだけで、出品者は利益を得ることはできません。それだけに需要の動向を見ながらの価格付けが必要です。一方、オークションは購入者が価格を付けて入札します。誰もが安い価格でしか入札しなければ、価格が高くなることはありません。

いずれにしても今、マスクが高くなっているのは、出品者が高く売るからではなく、高くても買う人がいるからです。供給よりも需要が多いと、高くても買う人がいます。私たちはあ店舗などでお店が付けた価格で購入することが多いので、供給者が自由に価格を付けて利益を得られると思いがちですが、その認識には注意が必要です。

では高くても買う人はどのような人でしょうか?

お金持ちでしょうか? その可能性もないわけではありませんが、ことマスクについていえば、その可能性は低いでしょう。価格が高いからといって、必要もない数のマスクを大量に購入する意味はないでしょう。

高くても買う人は、「どうしてもすぐに必要としている人」です。例えば病院であれば、「マスクの在庫がなくなったので、手術を延期します」とは言えません。すぐに必要で、しかもそこでしか手に入らないとなれば、高くても購入します。一方、「当面必要なストックはあるけど、先々が心配だ」という病院や「こういうご時世だからマスクをしないと」という人は、あまりに価格が高くなると購入を見送るでしょう。価格の上昇が、マスクを必要とする人の「緊急性」と「重要性」を選別するのです。今のご時世では、誰もがマスクを欲しいのですが、その「緊急性」と「重要性」は人によって違います。価格が上昇することで、本当に必要とする人が購入できるようにしてくれるのが、オークションを中心としたネットでのマーケットです。

それに対して、店舗販売ではほとんど値上げはしません。そのため、常に需要が供給よりも多く、売り切れになってしまいます。たとえ入荷ができても、店頭に並べられた瞬間に「念のため買っておこう」という人も購入するので、あっという間に売り切れになってしまいます。「どうしてもすぐに必要としている人」であっても、店頭で待ち構えていないと入手はできません。医療関係者や病気でマスクを必要としている人やその家族であっても、事実上、入手が不可能となります。

オークションやフリーマーケットなどのネット取引は、価格が大きく動くというデメリットがありますが、必要な程度に応じて購入できるというメリットがあります。価格が上がらないと、供給が不足している状況では〝早い者勝ち〟になってしまい、平等ではありますが、公平ではありません。価格による調整の方が、その人の必要度合いを考慮しているという点で、公平だと経済学では考えます。

「価格が上昇すると、収入が少ない人は買えない」という批判があるでしょう。その点は確かに一理あり、考慮しなければなりません。しかし、ことマスクについていえば、価格が上昇しても購入できないほどではないでしょう。諸田県議が売却した医療用マスクで、最高価格は1枚につき約86円だったそうです。緊急性を要する医療機関であれば、「高くて手が出ない」とは言えないでしょう。どこも売り切れでまったく買えないというのと、高い金額を払わなければ買えないというのは、意味が違います。

さらに、価格が変動しやすいマーケットでは、価格が上昇すると供給が増えるというメリットもあります。「こんなに高く売れるのなら、もっと売りに出そう」という人や会社が増えるのです。完売状態も生産を増やすインセンティブにはなりますが、高い価格で売れる方が、もっと強いインセンティブです。ストックしてあったものを出品する人や会社も出てくるでしょう。諸田県議の出品もこれに該当すると思います。そして、供給が増えると価格の上昇を抑え、やがては価格を下げる作用をもたらします。価格の上昇は供給を増やし、結果的に価格を下げる効果があるのです。

高くても買う人には、もう1つのタイプがあります。それが「転売ヤー」といわれる人たちです。この存在が問題なのはご承知のとおりです。転売ヤーは、価格の上昇による利益を狙う人たちで、値上がりしそうなものを狙います。通常は価格が上昇すると、必要性が低い人は購入を諦めますので、需要が少なくなります。しかし転売ヤーは「さらに値上がりして利益が得られる」と考えて買い占めをするので、価格が上がるほどに需要が増えていきます。その結果、価格はさらに上昇を続け、いわゆる〝バブル〟といわれる現象になります。まさに今、マスクでバブルが起きている状況です。この点では、経済学でいう需要と供給の法則は当てはまりません。

しかし、その上昇もいつかは終わりが来ます。転売ヤーは売って初めて利益が得られます。もともと転売が目的ですから、買い占めたマスクはすべて売り切る必要があり、需要が増える分、供給も増えることになります。やがて供給が需要を上回るようになると、価格は下がり始めます。すると、転売ヤーたちは売りを急ぎ、価格は暴落するようになります。株式や金などでバブルとバブルの崩壊が繰り返されているのは周知の事実です。マスクのような生活用品は在庫を抱えると負担になりますので、株式などよりも早くバブルは終焉することになるでしょう。

今回のマスク・バブルでも、うまく売り逃げた人もいるでしょうが、それよりもはるかに多くの転売ヤーが損失を抱えているはずです。転売で利益を上げるのは簡単なことではありません。株式市場で利益を得るのが簡単でないのと同じです。

そうはいっても、バブルが崩壊するまで高値での購入が続くのは社会的に問題です。株式と違い、マスクは必需品です。政府としては何らかの対応策が求められます。今回、マスクの転売が禁止されましたが、私はあまり良い施策だとは思いません。マスクは現在、需要に供給が追い付かない状況です。その状況の中で転売を禁止するのは、供給をさらに抑えることになるからです。今すべきことは、需要を抑えることです。転売ヤーが問題なのは、売却(=供給)することではなく、買い占め(=需要)をすることなのです。転売ヤーが買い占めをすることで、ネット取引での価格が高騰しています。

例えば、「1日につき1人マスク○枚まで」のような規制です。台湾ではすでに実施されているとのことですし、日本でもマイナンバーで制限を掛けることは可能でしょう。(アカウントでの制限では抜け駆けされます。)需要が制限されると価格の上昇が抑えられ、転売ヤーも一挙に売却を急ぐようになるでしょう。

政府がマスクを買い上げて、必要とする施設に無料配布すべき、あるいは配給制にすべきなどの声まで出ています。しかし、医療機関や高齢者施設であっても、備蓄のあるなしで必要の度合いは異なります。それを政策で一律に決めるのは適切ではありません。無料配布となれば、緊急性が低い施設であっても「欲しい」と手を挙げるからです。

個人的には、ガンの治療をしている人の家族がもっとも優先されるべきではないかと思いますが、今のところ、対象にはなっていません。必要性の度合いは当事者しかわかりません。それを判断する有効な手段が、マーケットでの価格の調整です。政府が需要と供給を調整しようとすると、たいていはうまくいかず、アングラマーケット(ヤミ市)が生まれます。

このようなことを述べると、機を狙った極端な意見だと言われるかもしれませんが、けっしてそのようなつもりはありません。かつて東日本大震災の直後に福島第一原発の事故で関東では電力不足となりました。その対応として、計画停電が実施されました。その際、多くの経済学者が勧めていた対処法は「電力料金の値上げ」でした。事故を起こした東京電力が利益を増やすことにもなりかねず、マスコミからは一顧だにされませんでしたが、やはり必要の度合いを判断できるのは価格の変動だという考え方です。

今回のマスクの価格上昇は、需要と供給のバランスが崩れているためです。一番の原因は、転売ヤーによる〝買い占め〟です。(転売、つまり売却ではありません。)そして、多くの人が不安で買い占め(備蓄を増やしている)ことも原因です。価格を引き上げずに完売としてしまった多くの小売店も、それに加担してしまったと言えるでしょう。

2020.3.16記

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