プルデンシャル生命保険事件①

今年の1月16日に大手外資系生命保険会社のプルデンシャル生命は、ニュースリリース(報道機関などへの書面配布)で、不適切な事案があったことを公表しました。その内容は、社員106名がかかわり、30.8億円にも及ぶ被害が生じているというものでした。報道機関、顧客からの問い合わせが殺到し、あわてた同社は23日に記者会見を開いて、トップが謝罪しました。今回は、この事件の内容を確認し、その原因と教訓を考えたいと思います。

まず、プルデンシャル生命についてご紹介いたします。親会社は、アメリカの大手生命保険会社であるプルデンシャル・ファイナンシャルです。同社は140年の歴史があり、世界40か国に進出しています。日本には1979年にソニーと合弁でソニー・プルデンシャル生命を設立して進出しています。その後、合弁が解消され、ソニー生命、プルデンシャル生命として、それぞれが生命保険業界で確固たる地位を築いています。

それまでの日本の生命保険会社は、家庭を持った女性を営業員として雇い、職域開拓を中心に保険商品の販売を行っていました。ソニー・プルデンシャル生命は、他業界から転職した男性を積極的に採用して、社員の人脈を活用した営業活動を推進しました。生命保険業界からの転職者は採用しない、という徹底ぶりで、今までにない営業スタイルを取っていきました。その営業スタイルは、ソニー生命、プルデンシャル生命に引き継がれており、今でもこの2社は、保険業界の中では異色の存在です。営業社員を「ライフプランナー」と称して、保険営業だけでなく、顧客の金融資産の管理にも積極的にアドバイスするのが〝売り〟とされています。

営業社員は週2日出社すればよく、営業活動は本人の裁量に大きく任されています。その代わり、3年目には固定給がなくなり、完全歩合制となります。給与格差が大きく、収入が得られなくなって数年で退職する人が多い代わりに、数億円を稼ぐ営業マンもいます。プルデンシャル生命の「エグゼクティブ・ライフプランナー」というと、それだけで販売の世界では尊敬の対象になるほどです。「鞄を置く際には、下にハンカチを敷く」など、顧客に気に入られる営業手法のノウハウを出版している人もいます。

さて、今回の事件が明るみになった経緯です。2024年に、同社の社員が顧客に投資話を持ち掛けて金銭を詐取し、警察に検挙される事件が2件立て続けに発生しました。それを受けて、2025年4月に金融庁は同社に対して「報告徴求命令」というものを出しました。そして1月16日に、社内調査の結果を公表しました。その内容は以下のようなものです。

  • 2024年から、顧客に209万通の案内を送って、不適切事案がないか調査した。
  • 保険業務に関する不適切行為は3件あり、被害額約6,000万円、被害者8名
  • 保険業務以外の不適切行為は(元)社員106人で確認され、被害額30.8億円、被害者498名。その内訳は
    • 投資勧誘が(元)社員41人で、被害額12.3億円、被害者188名
    • 顧客からの金銭の貸借は(元)社員91人で、被害額5.6億円、被害者312名
  • その他に、(元)社員69人が投資商品の業者紹介などを240名の顧客に行っており、多くの投資資金が顧客に返金されていない。

これほどまでに大規模に不適切行為が続いていたことの原因として、同社の報告では以下のような点を挙げています。

  1. 営業管理職による適切な管理がなされない中で、営業社員とお客様の間に密な関係が築かれ、不適切な事象の検知が十分でなかった。
  2. 業績に過度に連動した報酬制度は、金銭的利益を重視する嗜好を持つ人材を惹き付け、営業社員の収入の不安定さが不適切行為につながるリスクを増大させた。
  3. 創業以来のビジネスモデルを所与のものと捉える経営姿勢があり、個々の不適切行為の発覚に際しても抜本的な変革を躊躇する企業風土があった。
  4. 「営業社員への過度な尊重」「ビジネスモデルの絶対視」「高業績者が大いに賞賛される」という組織風土が醸成されていた。

そして、対応策として

  1. 営業報酬制度のインセンティブのしくみの改善
  2. 営業活動状況の適時・適切な把握強化
  3. 代表取締役社長兼最高経営責任者の退任

などを行うとしています。

2026.3.30記

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