高齢ドライバーの保険

2019年に87歳の男性が運転していた車が事故を起こし、2人が亡くなった痛ましい事故が大きく報道されました。それ以降も、ショッピングセンターの駐車場などでブレーキとアクセルの踏み間違えによる高齢ドライバーの事故がたびたび起きています。そのため、高齢者は交通事故が多く、危険だとのイメージがあるかもしれません。また、そのために高齢者は自動車保険(任意保険)の保険料が高いと思われがちですが、そうとも限りません。

まず、事故の割合から見てみます。免許保有者に対する事故の発生率を見ると、70代、80代でも10代や20代前半に比べて少なくなっています。40代、50代に比べると多いのですが、それでも極端に増えていくというほどではありません。10代や20代前半は、運転経験が浅いわりに、荒っぽい運転をする人もいますので、それと比べるとかなり事故は少ないと言えます。高齢者は安全運転を心がけている人が多いということは確かです。

一方、「交通事故」ではなく、「死亡事故」の件数で比較すると、70代後半から急激に増えていきます。高齢者は、大きな事故を起こしやすい傾向があるのです。個人差はありますが、年齢とともに、瞬時の判断能力やとっさの運動神経が低下しているからです。死亡事故の原因を分析すると、75歳未満では「安全不確認」が多いのに対して、75歳以上ではハンドル操作やブレーキとアクセルの踏み間違えといった「操作不適」が多いのが特徴です。そこで、法律面では高齢者にさまざまな制約を設けています。

まず、70歳以上になると、免許の更新時に高齢者講習を受ける必要があります。講義を受けた後、器材を使って視野や動体視力の測定をします。実際に運転もして個別指導を受けます。時間は2時間で、6,450円がかかります。免許証の有効期限満了日前6ヶ月以内に受講が義務付けられています。

そして、75歳以上になると認知機能検査が必要になります。そこで「認知症のおそれあり」となると、主治医の診断書などで認知症ではないことが確認できないと、免許の停止または取り消しとなります。そこまで至らない場合でも、「記憶力、判断力の低下が運転に影響するおそれがある」とされると、臨時高齢者講習を受講します。

さらに、一定の違反歴がある場合は、運転技能検査に合格することも必要になります。決められたコースを運転し、技能をチェックします。これに合格しないと免許の更新はできません。免許証の有効期限満了日前6ヶ月以内であれば、何度でも受験できます。

このように、高齢者の免許更新はなかなか厳しくなっています。しかし、更新できれば安心というわけにはいきません。自分では運動能力が衰えた意識はなくても、反射神経や注意力が衰えている可能性が十分にあります。それだけに自動車保険(任意保険)で備えておくことが大切になります。

自動車保険の保険料は、年齢によって異なります。ただ、必ずしも若者と比べて高いというわけではありません。自動保険の年齢要件は、次の2つの面で区分されます。「運転者年齢条件」と「記名被保険者年齢」です。「運転者年齢条件」は、運転する人の年齢です。主な区分は、「全年齢補償」「21歳以上補償」「26歳以上補償」です。保険会社によってはさらに「30歳以上補償」「35歳以上補償」の区分を設けている場合もあります。補償の対象年齢が高いほど保険料は安くなります。ご覧いただいておわかりのように、高齢者が運転する場合でも保険料は上がりません。記事の冒頭でご覧いただいたように、高齢者になっても事故率がそれほど高くはならない傾向を反映しています。

一方、「記名被保険者年齢」は、「運転年齢条件」で「26歳以上補償」を選択した場合に、保険契約者の年齢で6つに区分されます。「30歳未満」「30歳以上40歳未満」「40歳以上50歳未満」「50歳以上60歳未満」「60歳以上70歳未満」「70歳以上」です。60歳以上は保険料が高くなっていきます。「記名被保険者」は保険契約者ですが、主に運転する人にしなければなりません。ほとんど運転しない家族名義にするわけにはいきません。しかし、家族で共有していて、特に誰かが偏って使うわけでなければ、保険料が安くなる年齢の人を契約者にして問題ありません。記名被保険者を40代、50代の子どもにすることで保険料は抑えられます。もちろん、同居していて、運転頻度が少なくないことが前提です。

そのほか、保険料を抑えられるポイントをご紹介いたします。

  • 運転者の範囲:「本人限定」「本人・配偶者限定」「限定なし」の3区分が一般的です。「本人限定」が安く、「限定なし」が高くなります。「家族限定」を設けている保険会社もありますが、最近は少なくなりました。
  • 走行距離:インターネット損保などでは、年間の走行距離によって保険料を区分しているケースがよくあります。近所への買い物などにしか使わない3,000キロ以下が最も安くなります。走行距離の上限を超えた場合の対応や扱いについて事前に確認しておく必要があります。
  • 車種:自動車保険業界では、車種別に事故の発生件数をチェックしており、事故率によって保険料に差をつけています。一般に若者が憧れるようなカッコいい車種は保険料が高く、ファミリー向きの車種は安い傾向があります。
  • ノンフリート等級・免許証の色:ノンフリート等級は保険に加入してから無事故で更新すると上昇し、事故が起きると低下します。無事故を続けていると保険料が下がります。また、無事故無違反のゴールド免除も安くなります。つまり、安全運転を心がけていると保険料の節約につながります。
  • 安全装置による割引:衝突被害軽減ブレーキ(AEB)など、安全のための装置が付いている自動車には保険料の割引があります。以前は、アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)で割引が適用されていましたが、装着が一般的になると割引の適用が廃止されました。また、装置の装着が車種の保険料に反映されることで割引が廃止される場合もあります。このように、割引対象が頻繁に変わるので、注意が必要です。
  • 特約を見直す:一口に「自動車保険」と言っても、その中身は対人賠償保険を始め、いろいろな補償で分かれています。保険商品によっては選択の幅が広く、必要のない補償を削ることで保険料を節約できます。特に自社の修理代を賄う車両保険は保険料が高く、これを削ると保険料がかなり節約できます。

上記、保険料の節約ポイントを挙げましたが、その上で高齢ドライバーとして気を付けたいポイントを考えます。

1つは、上記の節約ポイントと逆なりますが、補償を削り過ぎない、ということです。長い運転歴で、運転に自信があるドライバーが多いのですが、自身で認識しないうちに判断力や反射神経は衰えています。たとえ保険料が高くなったとしても、それによって十分な備えができれば〝安心料〟と考えられます。あえて車両保険に加入するのも良いでしょう。弁護士費用特約なども検討したいものです。個人賠償特約は自動車の運転以外の日常生活でも補償は有効です。自動車保険で付けておくと安心です。

2022年5月にサポートカー限定免許が創設されました。普通自動車免許を保有している人が、任意で切り替えることができます。特に取得や更新が容易になるわけではなく、サポートカーしか運転できなくなりますので、切り替えるメリットはありません。免許はともかく、自家用車をサポートカーにすることで、安心できるようになります。サポートカーは、衝突被害軽減ブレーキ(AEB)とペダル踏み間違い時加速抑制装置が付いている車です。特にブレーキとアクセルの踏み間違いは高齢者の事故で多い原因ですので、割高ではありますが、あえて装着された自動車を購入することも大切です。

そして、何よりも自分の運転技術を過信しないことです。状況によっては、免許を返上することも選択肢になります。高齢者向けにチャレンジ講習というものがあります。運転技能を第三者の目で判断してもらえます。これに合格して簡易講習を受けると、免許更新時の高齢者講習が免除されます。高齢者講習を受講すれば免許は更新できますが、あえてシャレン時講習に挑戦することで、車の運転をしていても良いのか冷静に判断をすることができます。

最後に、免許を返上したら運転経歴証明書をもらうことができます。運転免許を身分証明書代わりに使っている人も少なくありませんが、この運転経歴証明書がその役目を果たします。さらに、買い物で割引が適用されたり、預金金利を優遇してくれる金融機関もあり、免許を返上することで新たなサービスを受けることもできます。自動車の運転を〝卒業〟するタイミングを見極めることも、高齢ドライバーにとって大切な要素です。

2023.12.30記

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