火災保険の値上げ2024

10月1日に多くの損害保険会社で、火災保険の保険料が一斉に値上げされました。値上げ幅は、会社によって多少異なりますが、おおむね平均10%程度となります。2019年からの5年間で4回目。トータルでおよそ4割の上昇になります。最近は物価の上昇が続いていますが、これだけの上昇は突出しています。「物価上昇のため」では説明がつきません。各保険会社は「近年の温暖化で自然災害が増加しているため」と説明しており、そのように報道されていますので、つい納得してしまいますが、実はあまり正確な説明ではありません。

火災保険は、本来は文字通り、火災による被害を補てんするための保険です。しかし、実際は火災による被害はそれほど多いものではなく、その多くは台風などの自然災害による被害です。2021年のケースで見ると、火災保険の保険金支払い2,456億円のうち、火災、落雷、破裂・爆発によるものは20%で、自然災害による被害が47%となっています。(その他に、水漏れ被害などが33%)

確かに温暖化の影響か、近年は自然災害が増加しているように感じます。河川の氾濫や土砂崩れのニュースをたびたび目にします。しかし、それによって火災保険の保険金の支払いが増加しているかというと、必ずしもそうとは言えません。数十年という長期的なスパンで見ると、増加傾向にあるとは言えます。ただ、直近で言うと、2018年を頂点として、この5年間は、火災保険の支払いは〝激減〟しています。(〝激増〟ではありません。〝激減〟です。)この間、火災による支払いはそれほど変動がありません。水漏れ被害などの「その他」は少しずつ上昇が続いています。保険金の支払いが減っているのは、自然災害による保険金支払いが激減しているからなのです。ではなぜ、火災保険の保険料が値上がりしているのでしょうか?

ほとんどの損害保険会社は、損害保険料率算出機構という業界の組織が算定した「参考純率」を基準に保険料を決めています。機構(損害保険料率算出機構)は、各社から保険金の支払い状況を聞き取っており、保険会社が運営を維持するのに適切な保険料率を、過去のデータから算出しています。これが「参考純率」です。各保険会社は、機構が算出した参考純率に、自社の経費などを上乗せして、保険商品の保険料を決めています。ほとんどの保険会社がこの方式で保険料を決めていますので、各社一斉に同じ程度の値上げとなるのです。

今回のケースでは、2023年6月に機構が金融庁に参考純率の変更を申請しました。申請がなされてから、だいたい1年5ヶ月後ぐらいに各社は値上げをします。そのため、今回は2024年の10月1日となりました。もっとも、いくつかのネット系損保では足並みを揃えずに、既に値上げを行っているところもあります。機構が申請した参考純率の変更は、建物の構造や地域によって異なりますが、全国平均で13.0%の引上げとなっています。それを受けて、各保険会社は具体的な保険商品ごとの保険料を決めています。東京海上日動火災保険は平均で9%の値上げで、他の大手3社(三井住友海上火災保険、損害保険ジャパン、あいおいニッセイ同和損害保険)も10%前後の値上げとなります。機構が算出した参考純率の引上げよりも少し抑えているのがわかります。具体的な商品や地域によっては、各社の戦略によってばらつきがあるでしょう。保険会社は、機構の算出した参考純率に従う義務はありませんが、おおむね業界で足並みを揃えて値上げを実行しているのです。保険料の価格競争を防いでいるわけです。

機構は、過去のデータから参考純率を算出しているのですが、過去の保険金の支払いデータを見ると、近年の温暖化で自然災害が増加しているというよりも、2018年と2019年だけが突出して増えているのです。

2018年の自然災害による保険金支払額は、合計で7,079億円と前年の5.7倍です。2019年も合計で5,070億円と前々年(2017年)の4.1倍です。地球温暖化の影響は産業革命以来、徐々に進行しているもので(近年は上昇のスピードが加速してはいますが)、1年や2年で激増するものではありません。さらに、2020年になると前年の3分の1、前々年の4分の1と〝激減〟しています。2022年以降はまだ保険金請求の期間中ですので、最終的な数値ではありませんが、2022年が1,317億円(2023年3月時点)、2023年が515億円(2023年8月時点)と減少傾向が続いています。2017年以前の水準まで戻ったと言ってよいでしょう。2024年はまだこれから災害が発生する可能性もありますし、途中データの公表もありませんが、今の状況ではおそらくそれほど多くはないでしょう。

では、なぜこの2年だけ保険金支払いが多かったのでしょうか?

2018年は台風21号が近畿の大都市圏を襲いました。関西空港への連絡橋に船が激突した映像を覚えている方は多いでしょう。この台風による被害による保険金支払いは、史上ダントツ1位です。2019年は台風15号と19号が首都圏を襲いました。いずれも、大都市圏で被害があると、保険金の請求が激増するのです。地方部で大きな被害が起きても、保険金額または請求件数という面では、それほど大きなものにはならないのです。この点、テレビなどの報道で受ける印象とは異なります。この3つの台風のおかげで、火災保険の保険金支払いが激増しました。それを受けて、機構が算出する参考純率は大きな引き上げとなり、少し遅れて各社の保険料が値上げとなっているのです。

機構は過去のデータをもとに参考純率を算出していますが、「過去」の期間を短くするようにしています。保険金支払いが多くなかった2017年以前をできるだけカットすることで、参考純率を高くしようとしています。(それによって、各社が値上げをしやすいようにしているのでしょう。)ということは、もしこのままいけば、2018年、2019年のデータが対象外となるのも早くなるはずです。参考純率は、そう遠くない時期に「引き下げ」となるはずです。私の推測では、2027~8年頃には、保険料が15%程度下がってもおかしくはありません。機構が参考純率の計算方法を変えない限り。。。

現在、火災保険は契約期間が最長5年となっています。かつては36年まで可能で、住宅ローンに合わせた年限で契約することも多かったのですが、徐々に短くなり、今では最長5年です。10月以降は、次の保険更新では値上げとなってしまいますが、その次の更新時には値下げになるはずです。これも、機構が参考純率の計算方法を変えない限り、ですが。

参考純率の算出では、もう1つ大きな変更がありました。これまで、水災に関するリスクは、都道府県単位で異なっていましたが、それを市町村単位(東京23区と政令指定都市は区単位)にしました。市区町村を、リスクに応じて5段階に分類し、参考純率に差を設けました。都道府県ごとの参考純率に市区町村のリスク段階に応じて加減をすることになります。同じ都道府県であっても、市区町村によって最大1.2倍の格差が生じることになります。市区町村のリスク段階は、機構の「水災等検索」というページで調べることができます。

1等地が最もリスクが少なく(参考純率が低い)、5等地はリスクが高い(参考純率が高い)地域となります。

これは、災害のリスクをより適切に保険料に反映させることによって、適切な保険料とし、保険への未加入を防ぐことが目的です。保険料が、きちんとリスクを反映していないと、リスクの高い地域にとっては割安な保険料となりますが、リスクが低い地域にとっては割高になります。割高な地域に住んでいる人は、保険に加入しない(または水害の補償を外す)ことを選択してしまいがちです。すると、保険に加入する人はリスクの高い地域の人が多くなり、保険金を支払う可能性が高くなります。保険会社としては、保険料を値上げせざるを得なくなるのです。保険料がリスクをより適切に反映することで、多くの人が保険に加入するようになり、保険料を抑えることができるのです。

都道府県単位だったのが市区町村単位となり、確かにリスクをより適切に反映するようになりました。ただ、それでも市区町村単位というのは、おおざっぱです。同じ市内であっても、河川の近くと丘の上では水害のリスクはまったく異なります。市区町村単位の保険料であっても、丘の上の人が割高な保険料を支払ってくれることによって、河川の近くの人の保険料を抑えていることになります。水害のリスクが低い地域に住んでいる人は、改めてその補償が必要なのか、検討する必要がありそうです。

お住まいの地域のリスクがどうなのかは、自治体で発行しているハザードマップで確認できます。河川氾濫、土砂崩れ、高潮被害のハザードマップが作成されています。さらに自治体によっては内水氾濫(豪雨で下水があるれる災害)のハザードマップもあります。

実は大手保険会社は自社のデータに、自治体のハザードマップの情報を取り入れており、詳細な地域のリスクを把握しています。しかし、それを自社の保険料に反映させようという動きは、今のところありません。あくまで機構が算出した参考純率に従って保険料を決めています。

さらに、建物の構造によって3種類に分類されていますので、今後は保険料の決まり方は複雑になります。建物の構造は、以下のような分類です。

  • M構造:耐火構造(鉄筋コンクリート造り等)のマンション
  • T構造:耐火構造、準耐火構造(鉄骨造り等)の戸建て
  • H構造:木造住宅など

今回の参考純率の引上げでも、全体の平均は13%アップですが、建物の構造によって異なり、さらに都道府県そして市区町村によって異なる率が算出されています。建物の構造やお住いの地域によって、引き上げが大きい場合も、小さい場合もあります。ちなみに、東京都の1等地のH構造(木造住宅)は、水害の保険料率が唯一〝引き下げ〟となっています。他の要素もありますので、実際の保険料が値下げとなるかは微妙ですが、少なくとも値上げにはならないのではないでしょうか。例えば、世田谷区は1等地となっています。

ほとんどの損害保険会社で10月から保険料を10%程度値上げしました。更新時期までは今の保険料が続きますが、次回の更新で値上げとなります。地域や建物の構造によって値上げ幅は異なりますので、保険会社に確認したいものです。対策としては、今加入している保険の補償内容を確認し、必要のない補償があれば、見直すことが大切です。水害補償について言えば、前述しましたように、市区町村単位に細分化されたとはいっても、まだまだ適切にリスクを反映しているとは言えません。水害の補償が必要なのか、今一度確認しましょう。大手保険会社の火災保険は補償内容が幅広い住宅総合保険が中心で、補償を削減できないことが多いのですが、インターネット中心の保険会社では補償内容を詳細に選べるところもあります。

2024.12.2記

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