火災保険の変更点

この10月に火災保険の保険料が値上げされました。多くの損害保険会社で一斉に値上げしています。値上げ幅は各社異なりますが、おおむね10%程度となっています。それだけでなく、火災保険に関してさまざまな改正がなされています。その多くが加入者にとって不利になる改正です。最近の改正点を見てみましょう。保険会社によって扱いは異なりますが、横並び体質の業界ですので、多くが遅かれ早かれ同じような改正をしてくるでしょう。

(今回の記事は、前回の記事の追加情報です。某損保会社からの情報を参考にしています。)

  • 保険料の値上げ

(保険料の値上げとその背景については、前回の記事でご紹介しました。ここでは、今後の見通しについて言及します。)

近年、自然災害による保険金の支払いが増加しており、その影響で火災保険の保険料率が上昇しています。火災保険とはいっても、保険金の請求は、火災よりも台風や大雨などによる自然災害が圧倒的に多く、実質的に自然災害に備える保険となっています。

地球温暖化の影響で、長期的に自然災害が増加傾向にあるという面もありますが、そればかりではありません。保険金支払いは2018年と2019年だけ突出して多くなっており(この2年だけ、それまでの3~4倍にもなっています。)、それを受けて保険料が値上げされています。なぜこの両年だけ多くなっているかというと、2018年は関西圏、2019年は首都圏を台風が直撃したからです。人口が多い地帯で被害が出たので、保険金の請求が急増したのです。

2020年以降はまたもとのペースに戻っています。2018年、2019年が保険料率算出の対象からはずれると、火災保険の保険料は値下されると考えられます。今までのペースでいけば、値下げは2024年の年初になると思われます。今、保険契約の更新を迎える場合は、1~2年待ってから加入するのも手です。その間、火災保険をかけていない状態になりますが、自然災害のリスクが小さい状況であれば、無理に加入する必要はありません。

  • 保険期間の短縮

火災保険の契約期間が、最長10年から最長5年に短縮されます。かつては、20年、30年などの長期契約があり、それだけ長期割引も大きく適用されました。しかし、近年の保険金支払いの増加で、長期に保険料を固定してしまうことが、保険会社にとってリスクとなったのです。長期割引がなくなった分、実質的な値上げにもなっています。

  • 水災補償のセット化

火災保険には、水災補償をセットで付けることができます。ある大手損保会社では、戸建て住宅については水災補償を原則セットとしました。外すことも可能ではありますが、特に要望しなければ、水災補償が付くということになります。

近年は河川の氾濫だけでなく、内水氾濫(下水道の水があふれる)も増えており、近くに河川がなくても水災のリスクがあります。しかし、高台など水害のリスクがほとんどない場所でもセットで加入してしまうことになりかねません。保険料率は都道府県単位で決まっていますので、リスクの小さい場所にもかかわらず加入してしまうとムダになります。

  • 自己負担の引き上げ

火災保険は、火災や自然災害のほかにも盗難、水濡れ、家財の破損などでも補償を受けられます。最近のリモートワークの増加で、「パソコンを落とした」ことでの保険金請求が増えているそうです。そこで、ある大手保険会社では水濡れや家財の破損については、5万円を自己負担とすることにしました。5万円を超える損害についてだけ補償するわけです。この保険会社の契約は申し込みの際に、自己負担額を0円、1万円、3万円の中から選べるようになっています。(自己負担額が小さい方が保険料は高くなります。)ところが、水濡れや家財の破損については、選択した自己負担額が適用されずに、5万円となるとのことです。保険金請求をしてからビックリすることになりそうですね。

(前回の記事では、楚辺手の損害について自己負担額が5万円となるように説明してしまいましたが、5万円となるのは「盗難、水濡れ、家財の破損」などのみで、火災や水災、風災などの補償については、加入時に選択した自己負担額となります。お詫びして訂正いたします。)

  • 支払い要件の見直し

火災保険は、自宅の損害の程度に応じて保険金が支払われます。その保険金で修繕や建て替えをするわけですが、必ずしも修繕や建て替えは必須ではありません。破損をそのままにしていても、引っ越しても保険金はもらえます。ところが今回の改定である保険会社は、保険金支払いの要件に「建物を事故直前の状態に復旧したこと」と言いう条件を付けました。この条件に適合するためには、修繕費を〝立て替え払い〟しなければならないことになります。立て替え払いの費用がなければ修繕もできず、保険金を受け取ることもできない、という状況になりかねません。実際には、建物を復旧することを確約すれば、事前に保険金を支払ってもらえるように運用するそうですが、どうしてこんなにひどい改正がなされたのでしょうか。

火災保険は災害や事故での損害に対して保険金を支払うもので、経年劣化による破損は対象外です。にもかかわらず、「○月○日の台風で破損した」とウソの保険金請求があるのです。「屋根や雨どいを無料で修繕できます」「保険金を山分けしましょう」「保険金請求書を作成しますよ」とそそのかしてくる悪徳業者が後を絶たないのです。3年間は保険金請求ができるようになっていることもあり、なかなか判別することが難しいのが現状です。そこで、少なくとも「保険金を山分けしましょう」を防ぐために、修繕を保険金支払いの要件にしたのです。

保険会社は積極的な対策ができておらず、不正請求も保険金支払いの増加につながり、その後の保険料値上げの要因となっているように思います。2018年、2019年の急増の中にも、グレーなケースは少なくないと思われます。損害保険協会では、AIを活用した対応をしているとのことですが、悪徳業者一掃とはいかないようです。

近年、火災保険の加入者が積極的に保険金請求をするようになり、保険金の支払いが増加し、保険会社が対抗策として、いろいろな制度改正をしているようです。経年劣化を台風や大雪のせいにする悪徳請求は論外ですが、補償の対象となっているものは、積極的に請求して保険を活用するのは良いことです。もともと保険会社が補償対象を広げているのですから。

それ以上に問題なのは、損保各社が保険料率算出機構の算出した料率に基づいて保険料を設定していることでしょう。火災保険については、都道府県単位で料率を決めていますので、それぞれのご自宅のリスクとは一致していません。このように業界全体で統一の保険料率を採用しているのは損害保険業界だけです。生命保険では、それぞれの会社が独自にリスクを計算して、保険料を決めています。

大手の損保会社などは、今までの保険金支払いで十分な実績を持っていますので、独自に保険料を設定できる実力があるはずです。大手保険会社が、独自のリスク算定をしているという報道も出ています。しかし、保険料率算出機構の算出した料率を使わない保険商品を発売したら、業界の秩序を乱すことになってしまい、なかなか踏み切れないのかもしれません。そこを踏み切る保険会社が出てきたときに、本当に加入者のリスクに応じた、適切な火災保険が誕生すると言えるでしょう。

(前回の記事では、「AIやビックデータを活用して、リスクを細かく把握し、保険料の設定に役立てようという動きも出ています。これが実現すると、リスクが低い地域の場合は保険料が安くなるでしょう。」と記載しました。確かに、このような動きがあることは報道されています。しかし、損保会社の話を聞く限りでは、独自の保険料率設定にそれほど前向きではない印象を受けます。その理由は、上記のように業界全体の秩序を乱さないようにするためだと思います。)

2022.10.27記

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