旭化成の研究員・吉野彰氏がノーベル化学賞を受賞しました。リチウムイオン電池の開発に貢献したということで、以前から〝候補〟との呼び声が高かったそうです。ここ数年は発表の日には会社にマスコミが集まってしまい、吉野氏の〝残念会見〟とその後に研究仲間との残念会(?)が恒例となっていたようですので、ようやくの受賞なのかもしれません。
一方、ノーベル経済学賞は、インド系アメリカ人のアビジット・バナジー氏、フランス系アメリカ人のエスターデュフロ氏、アメリカ人のマイケル・クレマー氏の3人が受賞しました。授賞理由は「世界的な貧困の削減のために、途上国の実際のデータを使い、因果関係を分析する実験的なアプローチを取り入れた功績に対して」と発表されています。
日本人の受賞ではないので、あまり報道されていません。今回と次回の2回にわたり、ノーベル経済学賞と今年の授賞対象についてご紹介いたします。保険とは直接には結びつきませんが、まんざら無関係でもありません。
ノーベル経済学賞は、実はノーベル賞ではありません。正式名称を「アルフレッド・ノーベル記念スウェーデン国立銀行経済学賞」と言い、スウェーデン国立銀行が、1968年に創設300周年の記念で設けた賞です。ノーベル財団の了解を取ってはいるようですが、ノーベル財団は「経済学賞はノーベル賞ではない」と表明しています。いわば、「ノーベル賞」にあやかって作られた賞ではありますが、その権威はやはり大きく、経済学の分野では最高の賞といってよいでしょう。1995年からは対象を経済学だけでなく、社会科学全般に広げています。時には、数学者や心理学者が選ばれることもあります。
経済学というと、自由を重視する見方と、平等を重視する見方での見解の違いが大きく、ノーベル経済学賞の選考もしばしば批判の対象になることがあります。受賞者はほとんどがアメリカ人、もしくはアメリカの大学出身で、〝主流派〟と言われる研究者が選ばれています。
日本人の受賞者はまだいません。ただ、「受賞してもおかしくない」と言われていた人は何人かいます。、伊藤清氏、宇沢弘文氏、森嶋通夫氏(いずれも故人)などです。青木昌彦氏、根岸隆氏、雨宮健氏なども候補と見られていた時期があります。この中で、伊藤清氏は数学者ですが、オプション価格の公式の基となるモデルを作ったとして、金融の分野で有名です。
最近では、プリンストン大学教授の清滝信宏氏が候補として注目されています。株価の下落が経済全体に与える影響を分析した、キヨタキ・ムーア・モデルが有名で、リーマン・ショック後のアメリカ連邦準備銀行の金融政策にも影響を与えたと言われています。もっとも、〝候補〟と言われる人は何人もいますので、近いうちに受賞できるかどうかはわかりません。
今年受賞した3人も候補と言われてはいましたが、「まだ先」と見られていました。もっと年齢が上の〝大御所〟が何人もいるからです。そんな大御所を飛び越えての受賞ですから、「もう来たか」と驚かれましたが、受賞すること自体は不思議ではない業績を築いています。
3人が経済学で築いた業績は、「ランダム化比較試験」という分析手法を開発したことです。そして、それを発展途上国での貧困対策で実際に試して、成果を上げました。今ではランダム化比較試験は、因果関係を明確にするもっともすぐれた分析手法とされています。
次回は、ランダム化比較試験がどのようなものかを、具体的に見てみます。生命保険にもおおいに関係がありそうです。
2019.11.14記

