大規模火災と火災保険

11月18日に大分市・佐賀関で大火災が発生しました。さらに26日には香港で32階建ての高層ビル7棟が炎上しています。香港の方は、150人以上の犠牲が確認されていますが、行方不明が多く、犠牲者はさらに増えそうです。今回は、大規模火災と、それに備える火災保険について見ていきます。

佐賀関の大規模火災では、182棟が巻き込まれ、1名が犠牲になりました。木造住宅が多い日本でも、近年では歴史的な規模です。2024年の能登半島地震に伴って発生した輪島朝市大火(240棟焼失)を除くと、近年の主な大規模火災といえば、2016年12月の糸魚川大火(富山県)が思い出されます。144棟の焼失でしたので、今回はそれよりも規模が大きいことになります。さらに大きな被害となると、1774棟が焼失した1976年10月の酒田大火があります。

火元は、酒田大火が映画館、糸魚川大火は中華料理店と異なりますが、大規模火災にまで火が燃え広がった要素を挙げるとすると、以下のようになるでしょう。

  1. 空気が乾燥している‥‥酒田、糸魚川、そして今回も、空気が乾燥している秋から冬にかけて発生しています。
  2. 強風が吹いていた‥‥いずれの大火も、その日は強風が吹いていたということです。強風にあおられた火の粉によって、あちこちに燃え広がり、消化が間に合わなかったようです。
  3. 木造住宅の密集地‥‥発生した場所はいずれも木造住宅の密集地で、燃え広がりやすく、さらに消防車が入りにくくて消火活動が困難を極めました。特に今回の佐賀関では、空き家が多かったということで、それが火の広がりに拍車をかけたようです。

今回の佐賀関の火災の原因はまだわかっていません。ようやく鎮火したこれから調査が進められることでしょう。もし、火元がわかったとしても、火事の被害を受けた人がすべて出火原因の人に損害賠償を請求することはできません。法律でそのように決められているからです。

日常生活や経済活動におけるルールを定めた民法では、損害賠償についてこのように取り決めています。

民法709条:故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

よって、基本的には過失が原因であっても、他人に損害を与えた場合は賠償を求められます。ところが、明治32年に定められた「失火ノ責任ニ関スル法律」では、以下のように定めています。

明治三十二年法律第四十号:民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス

読みにくいのでひらがなに直すと「民法第709条の規定は、失火の場合にはこれを適用せず。ただし、失火者に重大なる過失ありたるときはこの限りにあらず」となります。木造住宅が多い日本では昔から火災が少なくありませんでした。しかし、被害者が火元に損害賠償を求めても、それに応えられないのがほとんどでした。そのため、火災については元から損害賠償を請求できないことにしているのです。これは、大規模火災でも近隣数件の火災でも同じです。この明治時代の法律が今でも生きているのです。

もっともこの条文に「ただし」とあるように、重大なる過失(重過失)については別で、その場合は火元に損害賠償を請求できるとされています。では、過失と重過失はどう違うのでしょうか? 重過失であれば損害賠償を請求されますが、過失であれば請求されません。その違いは大きなものです。個々の状況によりますので、一概には言えませんが、最終的には裁判で判断されることになります。いくつか事例を見て見ると、

  • 過失とされた事例
    • 仏壇のろうそくに火をつけたまま外出して火災が発生した
    • たき火をした後に消化したが、残り火から火災となった
    • コンロに火をつけたまま寝入ってしまったため火災が起きた
  • 重過失とされた事例
    • ガスコンロの近くに燃えやすいものを置いたまま目を離した
    • ストーブのそばで引火性が強い接着剤を使用して引火した
    • ストーブのそばでガソリンが入った瓶を倒してしまった

どうでしょう。微妙なところですね。実は糸魚川大火では、火元の中華料理店で店主が火をかけたまま外出してしまい、火災が発生しました。重過失になりうる状況です。その後、店主は刑事裁判で禁固3年・執行猶予5年の判決を受けています。ただ、民事裁判は起こされていません。損害賠償を請求したところで、支払い能力はなく、裁判費用を回収できる見込みもないため、被害者はみな諦めてしまったようです。

糸魚川大火では〝災害〟として「災害救助法」と「被災者生活再建支援法」が適用されました。災害救助法が適用されたことで、がれきの除去には公費が当てられ、被災者には仮設住宅が提供されました。そして被災者生活再建支援法によって、自宅が全損の人には最大で国から300万円、県から100万円の支援金が支給されました。今回の佐賀関の大規模火災でも適用されることになり、全損の人には最大で300万円が支給されることが決まっています。もちろんこれだけでは自宅の再建はできません。

もらい火で被害を受けても、火元に損害賠償を請求できないとなると、どんなに火の用心をしていても、火災のリスクを免れることはできません。それだけに、火災に対する備えとして火災保険への加入が重要になります。火災を防ぐことはできなくても、火災による被害を補うことができます。火災保険への加入が必須となっているのは、火災が自助努力だけでは防ぎきれないからです。

火災保険については、これまでもたびたび取り上げてきましたが、火災より洪水や土砂災害などの自然災害に対する備えとして見てきました。今回は、本来の火災に対する備えとして見ていきます。

損害保険会社によって名称が異なりますが、自宅用の火災保険は大きく分けて3つに分類することができます。1つは基本的な災害に備える「住宅火災保険」、もう1つはそれよりは補償範囲が広い「住宅総合保険」です。どちらも、持ち家のための保険で、戸建て住宅、マンションなどの集合住宅のどちらにも対応しています。賃貸住宅に入居している人のためには「賃貸住宅入居者用火災保険」があります。

住宅火災保険と住宅総合保険の補償範囲は以下のようになります。

  • 住宅火災保険:火災、落雷、破裂・爆発、風災、ひょう・雪災
  • 住宅総合保険:上記に加えて、水災、水漏れ、物体の落下・衝突・飛来、盗難

補償内容を個別に選択できる保険会社もありますが、たいていはどちらかのセットになっています。住宅総合保険だけ扱っていることも多いです。

さらに、突然の事故による補償などを追加してセットにしている場合もあります。また、住宅とは直接関係のない個人賠償責任保険(借り物やお店の商品を壊してしまった場合に補償)などをオプションで付けることができます。地震保険は、火災保険に加入した上で別途、加入することになります。

火災となった場合に支払われる保険金の金額は、かつては、「時価」が基本でしたので、築年数が経過すると保険金額が小さくなり、自宅を再建するには保険金だけでは賄えない状況でした。今は「再調達価格」といって、今の自宅と同等のものを新たに購入・建築するのに必要な金額となっています。このように、保障内容が徐々に充実したものに改定されていますので、保険料も上昇傾向にあります。

家財については、建物とは別に契約することになります。家族の人数に応じて、概算で補償金額を設定します。ただし、以下のものは補償の対象になりません。

  • 1個の価格が30万円以上となる貴重品
  • 現金や有価証券:タンス預金は補償されませんので、要注意
  • 自動車:自動車保険にオプションの車両保険を付けると補償されます

先ほどから、火元に損害賠償を求めることはできない、と述べましたが、賃貸住宅については少し異なります。延焼による近隣の被害については同じですが、家主に対する損害賠償は必要になります。賃貸住宅は退去の際に原状復帰とするのが基本で、経年劣化以外の破損は修繕の費用が発生します。同じことが火災についても言え、原状復帰の費用、つまり損害賠償が必要になります。そのために、火災保険への加入が必須です。もっとも、入居に際して火災保険への加入を条件としていることが多いので、自然と加入することになりますが、必ずしもお勧めされた保険でなくても構いません。

2025.12.23記

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