先日、1つの生命保険会社が誕生しました。生命保険会社は許認可業ですので、国内には41社(生命保険協会加盟社)しかありませんでした(生命保険協会加盟社)。そこに新しく一社が加わりました。
名前は「はなさく生命保険」です。
設立したのは、日本生命。
日本生命が株式を100%保有している、完全子会社です。いわば、日本生命の〝別動隊〟といってもよいでしょう。
なぜ、日本最大の生命保険会社が、新しく同業の子会社を設立したのでしょうか?
会社設立の説明会に参加しました。そこではなさく生命の社長となった増山氏(もちろん、日本生命からの出向)は「ニュー・インシュランス・クリエイターとして、新しい価値を創造する」と新会社の目的を述べました。
新会社の方針として、以下の3つを上げています。
- 他者、代理店のノウハウ・ニーズの積極的な取り組み
- 新たな商品・サービスの開発
- 起動性・柔軟性の活かしたイノベーションへの取り組み
これらを、日本生命の中で行うのではなく、新たに子会社を設立したのは、「ゼロ発」のメリットを活かすため、と説明しています。
主旨はわかるのですが、いま一つピンときません。実は、新しく、同業種の子会社を設立した本当の理由は、別のところにあります。
その背景として、生命保険への加入チャネルの変化があります。
同社長の説明によると、40歳未満の加入チャネルは現在、営業員経由が44%、代理店経由が30%、通販が6%となっています。
6年前と比べると、営業員経由は25%減で、代理店経由が23%増となっています。この傾向は、今後も続くでしょう。
さらに、インターネットなどで通販が伸びることも考えられます。その分、営業員経由は減っていくことになります。
日本生命は、日本最大の生命保険会社ですが、保険の販売を支えているのは営業員です。「日生のおばさん」という言葉は、かつてCMでも多く流され、良く知られる言葉です。
かつては昼休みに生命保険のセールスレディが職場の中をうろうろしている姿が普通でした。企業情報や個人情報の漏洩に対する意識が厳しくなった今ではとても考えられません。
このような職場での営業活動が制限されるようになり、〝GNP〟(義理、人情、プレゼントの頭文字)と言われた営業手法が通用しなくなりました。
変わって伸びていったのが、店舗型の乗り合い代理店です。職場に販売に来てくれないので(職場の方が入れないからですが)、こちらから行くしかありません。しかし、一般に生命保険会社は〝店舗〟を出していないので、保険を販売する代理店(保険ショップ)に行くことになります。
さらに、保険ショップでは、多数の保険会社の商品を扱っており、「各社の商品の中からもっとも適したものを選べます」とうたっていますので、保険会社のセールスレディ―よりも魅力的です。
多数の保険会社の商品を比較できる乗り合い代理店の保険ショップは、新規加入だけでなく、現在加入している保険の見直し提案もしてくれ、消費者のニーズを取り込みました。
自社のセールスレディが顧客に直接販売するのではなく、乗り合いの保険代理店が販売するようになると、代理店のお勧めいかんで、売上が変わります。保険会社の〝顧客〟は保険加入者ではなく、保険代理店になりました。生命保険会社もこの流れに対応して、代理店へのセールスを強化しています。
日本生命もご多分に漏れず、代理店へのセールスが、今後のキーポイントになります。ただ、日本生命では、簡単に代理店販売の強化を勧めるわけにはいきません。かつて「日生のおばちゃん」と言われていた、日本最多のセールスレディを抱えているからです。
代理店による販売が増えれば、営業員経由での販売は、その割を食うことになります。生命保険の営業員(セールスレディ)は、その多くが歩合制です。営業員経由の販売が低迷すれば、営業員の収入も低迷します。
保険会社としてはどちらで売れようが変わりありません。しかし、営業員(セールスレディ)にとっては死活問題です。日本最多のセールスレディを抱えている日本生命では、表立って代理店販売の強化に舵を切ることはできません。そこで「別会社の設立」という方法が取られたのです。
日本生命では引き続き、営業員(セールスレディ)中心の販売を続けます。そして、伸びている代理店経由の販売をはなさく生命が担います。100%子会社ですから、連結決算(日本生命グループ)では、自社で販売するのと同じことです。
一言で言えば、「販売チャネル」という社内の事情のために、新しい保険会社を設立したわけです。設立の目的に、「顧客のために」「今までにない保険商品」という発想はそれほどありません。
実際、第1号の商品として発売されたのは医療保険「はなさく医療」です。医療保険を選んだのは、代理店での販売割合が高いからです。
商品の中身はスタンダードなもので、特に目新しいものはありません(同社の社員もそのように言っています)。目新しい商品を開発することが目的ではなく、販売チャネルの問題解決が目的だからです。
販売する代理店は、今まで日本生命の商品を扱っていた代理店です。日本生命が、新会社の販売を全面的にバックアップします。
日本生命の全面的なバックアップの元、新会社は比較的早く軌道に乗ることでしょう。代理店の販売手数料を厚くすることで、代理店に選ばれる商品にすることもできます。
しかし、その後の成長はわかりません。乗り合い代理店は、各社の商品を良く比べています。確かに販売手数料は販売のインセンティブになりますが、最終的には他社より優れた商品でないと選ばれないでしょう。
そのような商品を出していくことができるのか、それとも販売チャネルのための日本生命の別動隊で終わるのか、今度の同社の成長を見守っていきたいと思います。
2019.8.12記

