インデックス保険

「インデックス保険」というタイプの保険商品があります。といっても、まだあまり普及はしていません。今回はこの保険商品についてご紹介いたします。

インデックス保険は「パラメトリック保険」とも言われており、保険商品のタイプの名称です。インデックス(index)は「指標、指数」などの意味です。「検索」という意味では日本語としても使われていますね。インデックス保険は「指標に基づく保険」と言えます。パラメトリックのパラメーターは「変数、母数」という意味で、パラメトリック保険は「統計の変数値に基づく保険」という意味になります。言い方こそ違えど、どちらも同じ意味です。つまり、「あらかじめ定めた指標が一定の水準となったら保険金を払う保険」です。主に損害保険の商品として使われています。例えば、降水量が一定の水準以上になったら保険金が支払われるというような保険です。単純な仕組みではありますが、なかなかこのタイプの保険商品は作られませんでした。

損害保険は、被害を受けた際に、その損害を補うように保険金を支払うようになっています。あくまで「損失を補う」ことを目的としています。この損害保険の業界では「利得禁止の法則」というものを重要視しています。受け取る保険金が損失額よりも大きく、被害を受けたことで利益が生じてしまうことにならないようにするというのです。保険金でかえって利益になってしまうと、故意に事故を起こす人が出てしまうことを心配しているのです。

そのため、損害保険では、保険金は損害の程度に応じて決まるようになっています。事故が起きると、保険会社の人が査定を行い、被害額を判定し、それに基づいて保険金を支払います。(話がそれますが、ビックモーターの事件は、保険会社がきちんと査定をしなかったことが一つの原因になっています。)「保険金額」は、あくまで保険金の上限であり、大きな保険金額をかけていても、損失額以上に保険金が支払われることはありません。この点は、対象者が亡くなったら必ず保険金額が支払われる生命保険と異なります。

一方、保険料の方は、事故が起きる頻度に応じて細かく設定しています。火災保険では、災害の発生頻度を考慮して、地域で保険料が異なります。自動車保険では、運転する人の年齢はもちろん、車種によっても保険料が細かく分かれています。事故を起こしやすい車種があるわけではないのですが、現実に車種によって事故の発生確率が違いますので、事故の多い車種は保険料が高くなります。

それに対してインデックス保険は、指標が一定の水準となったら決まった保険金を支払います。損害額の調査を行わず、一律の保険料を支払うわけです。場合によっては〝利得〟となってしまう人もいるかもしれませんが、そこは気にしません。降水量などの指標は、保険加入者が操作することはできませんので、悪用される心配はありません。保険料の方も基本は一律で、加入しやすくしています。

インデックス保険のメリットは、以下のようになります。

  • 保険金の支払い時に査定が必要ないので、運営の経費が抑えられる。
    ⇒ そのために、保険料を安く設定できる。
    ⇒ そのために、保険金の支払いが迅速である。
  • 保険金支払いの条件が、気候などの指標なので、加入者が操作できない。
    ⇒ そのために、加入の審査を簡単にしても問題ない。
    ⇒ 保険料が安く、加入手続きが簡単なので、加入者を集めやすい。(⇒さらに保険         料を安くする要因になります。)

このようなメリットから、途上国での保険の活用に積極的に使われています。途上国の農業は自然災害による被害が大きく、農業経営のリスクが大きい傾向があります。にもかかわらず小規模農家が多く、高い保険料が保険での備えの障壁になっていました。近年、「天候インデックス保険」が開発されるようになり、小規模農家に対して、安い保険料で保険商品が提供できるようになりました。気温、降水量などの指標が、事前に決めた水準を下回ると(または上回ると)、保険金が支払われるようになります。干ばつや冷害の際に保険金を受け取ることで、農家が減収を補てんすることができるようになりました。

具体例を見てみましょう。損保ジャパンなどのSOMPOグループでは、国際協力銀行と共同で研究を進め、2010年にタイで天候インデックス保険を商品化ました。タイ農業協同組合と協同し、農業ローンの契約者向けに販売しています。

日本でも商品化されています。三井住友海上は、2022年8月発売の中小企業向け地震保険にこの仕組みを導入しています。地震で被害を受けた際に、応急的な資金需要に応えるため、被害額を調査せず、指標だけで保険金を支払います。指標となるのはその地域の震度です。震度6弱で保険金額の10%、震度6強で30%、震度7以上で保険金額の100%が支払われます。査定がいらないために、保険金の支払いが早く、地震発生後すぐに当座の資金を提供できます。もちろん、震度を操作することはできませんから、悪用される心配はありません。

日本では、保険料を抑えることよりも、迅速な支払いを目的として導入されているようです。

個人向けでは、東京海上日動が商品化しています。2020年8月に販売された「地震に備えるEQuick(イークイック)保険」です。「地震保険」は、政府と民間の保険会社が共同で運営していますので、これとは別の「地震諸費用保険」と言っています。地震保険が、被災した自宅の再建のための備えなのに対し、この保険商品は被災した際の当座の資金を確保することを目的としています。やはり迅速な保険金の支払いが最大の特徴です。保険料と保険金は、コースによって以下のようになっています。

 プレミアムスタンダードエコノミー
保険料(年間)9,600円4,800円2,400円
保険金額震度6弱10万円5万円
震度6強20万円10万円5万円
震度750万円25万円20万円

あくまで、当座の資金需要に応えることが目的ですので、保険金の金額はそれほど高くはありません。悪用はできないとはいっても、被害が少なかった人にも大きな保険金を支払うと、災害によって大きな利益を得てしまう人が生じてしまいますので、それは避けるようにしています。地震保険では、建物5,000万円、家財1,000万円が上限(同時に加入する火災保険の保険金額の半額まで)となっているのとは異なります。

加入はスマホでできます。指標となる震度は、気象庁が公表したものですので、加入者の保険金請求を待つまでもなく、保険会社は保険金支払いの判断ができます。被災地域の加入者には、保険会社から保険金振込の銀行口座の確認のメールが届き、それにOKすると、最短3日で保険金が支払われます。

政府と共同運営されている地震保険との違いをまとめます。(地震保険は、どの保険会社でも同じ保険料、支払い内容になっています。)

 地震保険地震に備えるEQuick保険
目的被災した自宅の再建(持ち家の人だけ)当面の生活資金の確保(借家でも加入OK)
加入火災保険への加入が条件この商品だけの加入OK
保険金額最大建物5,000万円、家財1,000万円で、火災保険の保険金額の50%までコースによって、最大20~50万円まで
保険金支払いの判断個別に査定して保険金額を判定するその地域の震度で判定する

地震が発生すると、通常の地震保険では、保険会社の調査員に査定をしてもらい、審査の結果、被害額が判定され、保険金が支払われます。そもそも時間がかかる仕組みですが、大地震の際は調査員が不足して、余計に時間がかかってしまいます。実際、東日本大震災の際には、個別の査定が間に合わず、航空写真で地域一帯を判定して保険金を支払っています。それであれば、震度で判断したのとそう変わりません。

被災者と保険会社で判断が食い違う心配もありません。被害額を判断するのは、保険金を支払う保険会社です。被災者としては、なかなか納得しにくい面があります。気象庁が出す震度で判定されれば、疑問の余地はなく、すっきりするのではないでしょうか。

願わくば、現金を自宅や避難先に届けてくれれば言うことはないのですが、それは難しいのでしょうか。3日で銀行振り込みがされると言っても、被災地の銀行では現金を引き出せるとは限らず、口座に保険金が入っても使えないということになりかねません。金融システムが回復したのであれば、当座の必要資金は自分の口座から出金すればよいわけです。普通預金口座に50万円以上あれば、わざわざこの保険に加入する必要性は薄いように感じます。

「利得禁止の法則」を外して考えないと、インデックス保険の本当のメリットがある保険商品はできないのかもしれません。

2023.10.6記

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