ドラッグストアでも、大型スーパーでもマスクが売り切れています。新型コロナウィルスの影響で、需要が急拡大したのに対して、生産が追いついていないからです。ただ、理由はそれだけでなく、もう1つあります。それは「値上げをしない」からです。
経済学の教科書では、商品の価格は需要と供給の関係で決まると書いてあります。需要よりも供給が多いと値下がりし、供給よりも需要が多いと値上がりし、需要と供給が均衡するように価格が変化します。長期的には正しいのですが、短期的には必ずしもそのようにはなりません。
今では、かつてのようにメーカーが「定価」を決め、小売店はそれに従って売るということはありません。販売価格は小売店で決めますので、競合他店の状況や、その日の販売方針などに合わせて、自由に決められます。
しかし、それでもおおまかな〝妥当な金額〟というものがあり、それに基づいて多少上下に変える程度です。その商品が売れなければ、「売れ残り」となり、売れれば「売り切れ」となります。
供給よりも需要が増えても、簡単に値上げすることはできません。値上げをすると、「消費者の足元を見ている」と批判され、お店が消費者からそっぽを向かれてしまうからです。お店は、地元の評判を気にします。一時的に高く売れても、お客の信頼を損なってはその後の営業に支障をきたします。「売り切れ」なら批判はされませんので、今のような時期にマスクは常に「売り切れ」状態になります。
それに対してオークションは、経済学の理論通りで、需要と供給が均衡する点で取引が成立します。そのため価格は大きく動きますが、「売り切れ」となることはありません。今のようなマスク不足の際は、価格が上昇しますが、買うこと自体はできます。まったく入手できない、ということはありません。これがオークションの優れた点です。
さらに価格が上昇することで、供給が増えるというのもオークションのメリットです。高く売れるのを見て、生産を増やしたり、新たに参入する事業者が増えるからです。すると、比較的早くに価格は下落するようになります。オークションは、価格が大きく変動するのがデメリットなのですが、適正な水準に戻る作用も持っているのです。
このように書くと、「今のマスク不足は、転売をする人たちが買い占めてしまい、価格を釣り上げているからだ」とおしかりを受けるかもしれません。確かに、最近のネットでのマスクの高騰は、需要と供給だけでは説明できない水準まで上がっています。上記の需要と供給の関係で説明できないのが〝バブル〟の存在です。今のマスクもバブルになっています。
バブルは、株式でも商品でも、それを必要(または欲している)人が購入するのではなく、「さらに上昇した価格で売れる」と思う人で買いが殺到する状態です。今、マスクをネットで購入しているのは、「今後マスクはさらに上昇して、より高く売却できる」と思っている人が多いようです。いわゆる「転売ヤー」と呼ばれる人たちです。
この人たちは、実際に必要としている量を購入するわけではありません。さらに高い価格で売れると思っていますので、できるだけ多く買えればよいのです。そのような人が増えると、価格はどんどん上昇していきます。上がれば上がるほど、「さらに上がる」という人が増え、買い占めが続きます。
しかし、それはいつまでも続きません。転売をする人は、価格が高いうちに売却をしなければならないからです。転売をする人が増えると、始めは転売のための購入が増えますが、やがて転売による売却が増えていきます。さらに購入も増えていけばよいのですが、あまりに価格が上昇すると、転売狙いの人も購入をためらうようになります。購入が売却よりも少なくなると、価格が下がりだします。すると、転売ヤーはあわてて売りを急ぎます。
在庫を抱えることは負担になります。価格が下がる前に自分の持ち分を売り切ってしまいたいのです。しかし、売り急ぐ転売ヤーが増えると、価格は暴落します。転売ヤーの購入がなく、需要が減ってしまっているためです。多くの転売ヤーは損失を抱えることになりますが、それでも在庫を抱えることは負担でしかありませんので、損切り覚悟で売却を続けるようになります。価格の上昇よりもはるかに速いスピードで価格は下がり続けることになるでしょう。
株式などは大量に保有しても、それほど負担ではありません。しかし、マスクのような商品は在庫を抱えるとその置き場所にコストがかかります。転売ヤーは、ほとんどが在庫を持ち続けられませんから、早く売却してしまいたいと考えます。
さらに、工場での生産は続いていますので、供給は常に続いています。今は価格が上昇していても、いずれ値下がりするのは火を見るより明らかです。今は転売ヤーのために需要が膨れ上がっていますが、それが大量の供給になるのにそう時間はかかりません。株式などに比べると、はるかに速くバブルが崩壊します。
その間、価格が高いうちに売り逃げて、大儲けをする人もいます。しかし、それができる人はそれほど多くはありません。ほとんどの転売ヤーは、価格が上昇してからマスクを買い占めており、大きな損失を抱えることになるでしょう。
政府がマスクの転売を禁止するとの報道が流れています。そんなことをする必要はありませんし、すべきでもありません。放置していても、マスクのバブル状態はそれほど長くは続きません。
また、転売を禁止すると売りが出なくなり、緊急にマスクが必要な人は手段を絶たれてしまいます。むしろ、ネットオークションでの売買を放置しておいた方が、マスク不足は早くに沈静化するでしょう。転売ヤーの供給が増え、価格が暴落するのは、そう遠いことではありません。
2020.3.6記

