昨年12月に、政府の諮問機関である「全世代社会保障検討会議」による最終報告「全世代型社会保障改革の方針」が出されました。これは、今後の社会保障の制度改正の道筋を示す答申です。これを見ると、政府が目指している方向性と、社会保障における当面の制度改正がわかります。
最終報告では、基本的な考え方として、次のように述べています。一部抜粋します。
現役世代への給付が少なく、給付は高齢者中心、負担は現役世代中心というこれまでの社会保障の構造を見直し、切れ目なく全ての世代を対象とするとともに、全ての世代が公平に支え合う「全世代型社会保障」への改革をさらに前に進めていく。
今までの社会保障は、現役世代の負担で高齢者を支援するという関係が主となっていましたが、もうこの関係は〝公平〟ではない、と指摘しています。そして、これからは高齢者にも負担をしてもらい、現役世代を支える仕組みも必要で、これが「全世代型」の社会保障であるということです。現役世代を支える仕組みの中では、少子化対策が中心とされていますので、子育て支援と言ってもよいでしょう。
ここ数年の社会保障制度の改正もこの考え方に沿ったものとなっており、今後もこの方向でさらなる改革を推進していくとしています。日本の社会保障政策は、高齢者の支援から子育て支援へと舵を切りました。子育てに関する制度は拡充されていき、その一方で高齢者の医療や福祉は徐々に削減されていくことになります。
では、具体的になっている改正案を見ていきます。
- 高齢者の医療費の窓口負担引上げ
病院で診察を受けた際に窓口で支払う自己負担の割合は年齢で異なります。健康保険でも国民健康保険でも、小学校入学前までは2割、その後69歳までは3割となっています。70歳から74歳までは原則は2割ですが、現役並みに収入がある人は3割となっています。75歳からはすべての人が「後期高齢者医療制度」に加入し、原則は1割で、現役並みに収入がある人は3割となっています。
現役並みの収入とは、具体的には細かい計算が必要ですが、年収ではおおむね370万円以上の人です。年金だけでなく、事業での収入や不動産収入がある人などが対象と考えてよいでしょう。
2022年から75歳以上のうち、一定以上の収入がある人は2割負担とする方針になりました。こちらも細かい計算で決まりますが、おおむね単身で年収200万円、夫婦世帯で320万円以上が対象になります。1割が2割になったといっても、実際に窓口で払う金額は倍になるわけで、受診をすることが多い高齢者は驚くかもしれません。そこで、2022年から3年間は負担増が月3,000円までに収まるように抑えられます。
- 大病院での初診の負担拡大
ちょっとした風邪でも、「安心だから」ということで大学病院などを受診する人が後を絶たず、大病院の外来はかなり混雑しています。設備が整った大病院での診察が必要な人の受診に支障が生じますので、大病院では初診料が高く設定されています。徐々に引き上げられ、今では紹介状なしの受診では、初診料は5,000円もします。それでもいきなり来る人が後を絶たないようで、診察代も2,000円までは自己負担とすることにしました。大病院の対象も増やします。
- 児童手当の削減
中学生までの子どもがいると、国から児童手当が支給されます。生まれてから2歳までは子ども1人につき月額15,000円、その後は1人につき月額10,000円です。(第3子以降は、小学生まで1人につき月額15,000円です。)
ただし、年収が多い人は子どもの年齢にかかわらず、1人につき月額5,000円となっています。その年収の基準は、扶養している家族の人数などによって異なりますが、830~1,000万円です。
2022年10月からは、年収1,200万円以上の人には、その5,000円の支給も取りやめることになりました。子育て世代への支援を削減するわけですから、先ほど述べました政府の方針に逆行する施策です。しかし、国はこの分の財源を、待機児童解消に充当するとしています。財政削減が求められる中で、新たな財源を生み出すための苦肉の策として、収入が多い子育て家庭への支援を削りました。
- 待機児童の解消
保育園に入ることができない「待機児童」問題には、政府もこのところ取り組んでいますが、まだまだ解決できてはいません。政府は来年度からの4年間で14万人分の保育の受け皿の整備を進めるとしています。
そのための財源ですが、2021年度については、消費税の引き上げ分を充当し、2022年からは先にご紹介した児童手当の削減で捻出する資金を充当します。消費税の引き上げ分は、不妊治療の支援に充当することを以前から約束していましたので、収入が多い子育て家庭に負担を強いることにしました。児童手当の削減を実施するまでの1年間だけは消費税の引き上げ分を充当します。綱渡りの予算繰りなのがわかります。
- 不妊治療の支援
不妊治療にかかる費用が小さくないことが問題になっていました。少子化対策としてもその負担を軽くしたいところで、2022年から健康保険・国民健康保険などの保険対象とすることにしました。保険の対象になると、財政面での支出も必要となりますが、以前から約束していたように、消費税の引上げで増える税収を充当します。2021年度はまだ保険適用ではありませんが、今までの助成制度を拡充します。1回あたり30万円とし、収入制限は撤廃します。
現在予定されている主な改正点を見てみました。2022年度からの改正が中心です。高齢者で一定以上の収入がある人は医療費が上昇し、少子化対策を整備します。ただ、子育て世代でも収入が多い家庭は負担増になる改正もあります。世代に関わらず、収入が多い人への支援を削減して財源を捻出する、という姿勢が見えます。全世代で助け合う社会保障を目指していると言えるでしょう。
2021.1.8

