介護は自宅から施設へ!?

再び新型コロナの感染者数が増加しています。第8波に入ったとも言ってよいでしょう。オミクロン株のコロナは、感染力は強いものの、重症化のリスクは低いと言われています。それでも高齢者は安心できません。すでに持病を抱えている人も多く、新型コロナの感染で、それが重症化してしまう懸念があります。コロナ・ワクチンを接種していても感染するリスクはセロではなく、老人ホームなどの高齢者施設では、家族でも面会禁止にしているところが少なくありません。コロナ禍となって2年10ヵ月が経過していますが、その間、まったく家族が会えない施設もあります。

常に介護職員がいるということで、介護については安心できる高齢者施設ですが、思わぬところで、リスクが露見してしまいました。「家族とも会えなくなってしまうかもしれない」と考えると、老人ホームへの入居をちゅうちょしてしまうのもわかります。

 

施設から自宅へ―介護保険制度の本当の狙い

2000年に介護保険制度が誕生してから、すでに20年以上が経過しました。介護保険制度は、40歳以上の人が保険料を払い、65歳以上で介護が必要な人が割安な料金で介護のサービスを受けられる社会保険制度です。介護サービスを受けると、その費用の7~9割は介護保険から出ています。それは、自宅で暮らしている人も、老人ホームに入居している人も同じです。自宅で暮らしている人であれば、お年寄りが行くデイサービスや、自宅に来てくれるヘルパーさんの費用が、介護保険のおかげで割安になっています。老人ホームで暮らしている人は、介護保険から介護の費用が出ていますので、毎月支払う利用料が抑えられています。

そういう意味では、自宅で暮らす場合も施設に入所する場合も利用できるのですが、介護保険制度の真の狙いは、自宅で暮らす場合に家族の負担を減らすことにありました。介護保険制度ができたおかげで、プロの介護職員(ヘルパー)が自宅に来て、家族に代わって介護を担うようになりました。介護保険制度ができるまでは、赤の他人が自宅に入って家事を行うなどと言うことは考えられませんでしたが、介護保険が定着するにつれて抵抗感がなくなってきました。

厚生労働省も、「施設から自宅へ」ということを明確に打ち出し、介護が必要になっても自宅で暮らしていける環境づくりを目指しています。介護保険で支払われる費用は、自宅よりも施設の方が多くなります。さらに、施設入居を求める人が増えると、国や自治体としても高齢者施設の新設に予算を投じなければならず、大きな財政負担となります。国としては、財政負担を少なくするためにも、老人ホームに入居しないで自宅で生活していく人が増えるように施策を行っています。

 

現実は逆の方向に

自宅で暮すよりも、老人ホームなどの高齢者施設に入居する方が、費用はかかります。ご本人、ご家族にとっても、自宅で暮らした方が格段に安上がりです。介護の負担が少なくて済むのならば、わざわざ施設に入居する必要はありません。介護の負担さえ軽減できれば、やはり自宅で暮らす方がご本人もご家族も良いはずです。国が、自宅での介護の負担を減らすようにいろいろな施策を打ち出していけば、施設に入居する人は少なくなっていくかもしれません。(高齢者が増えていますので、実数は増えたとしても、割合は減っていくでしょう。)

しかし現実は、国の狙いとは逆で、自宅での介護はますます難しくなっていると言えるでしょう。むしろ施設入居の方がしやすくなっています。その理由の一つが〝人手不足〟です。

介護業界は常に人手不足の状態が続いています。コロナ禍で、飲食業や観光業での失業があり、全体的には求人倍率が低下した時期もありましたが、コロナとの共存で外食や旅行の人出が戻りだすと、どの業種でも人手不足になってきました。もともと人手不足であった介護業界は、さらに人手不足に拍車がかかっています。

高齢者施設でも、職員配置ができずに入居を抑えているということころが少なくありません。入居希望がいなくて空室なのではなく、職員が足りなくて満室にできないというのです。コロナ禍のデータですが、2020年における高齢者施設の介護職員の有効求人倍率は3.90倍でした。ところが、さらにこれを上回るのが、自宅を訪問して介護をするホームヘルパーです。同年の有効求人倍率はなんと14.92倍となっています。1人の求職者に対して、15件の求人募集があるということですから、求人をしている側からすると、「求人をしても、ほとんど応募がない」という状況でしょう。コロナ禍でこのペースだったのですから、今はさらに上昇していることでしょう。

高齢者施設でも入居募集を止めるという状況ですから、在宅介護のサービスでは、依頼があっても人出が足りずに、サービスの提供ができないという事態が起きています。実際、サービスをお願いしても、事業者によっては「空きがありません」「いっぱいです」とお断りする状況となっています。身体介護(食事や排せつの介助)や生活援助(調理や掃除)、訪問入局介護など、自宅にヘルパーさんが来てくれるメニューはいろいろと用意されているのですが、実際にはお願いができないわけです。

 

なり手が少ないホームヘルパー

どうして、これほどまでに人手が足りないのでしょうか?

介護の仕事の中では、ホームペルパーはあまり人気がないのです。高齢者施設であれば、何人もの職員がいますので、皆で協力し合ったり、先輩職員の指導を受けることもできます。それに対して、自宅での介護は、ほとんどはヘルパーが一人で訪問して行います。誰も頼ることができませんし、不安もあるでしょう。今年の2月には、介護ではありませんが、訪問診療をしていた医師が殺害されるという事件もありました。一人で自宅に上がるのは、仕事といえども不安があるでしょう。さらに、訪問介護の仕事は、給料が訪問件数によって決まることが多く、毎月の収入が不安定で、移動時間が含まれていないなどの問題があります。

同じ介護の仕事でも、高齢者施設で働く方が安心できて、収入も安定しています。こちらも引く手あまたであれば、そちらに移る人が相次ぐことは明らかです。ホームペルパーの事業所では、せっかく一人前になった職員が、施設の方に転職してしまうというケースも多くあります。

一方、高齢者施設の方は、先ほど述べたように、人手不足で入居募集を止めている施設もありますが、全体的に見れば、入居が難しいという状況ではありません。施設の数が増えているからです。

このような状況が続くと、今後はますます自宅での介護が難しくなり、老人ホームなどの高齢者施設に入居した方が良い、という傾向が続いていくことでしょう。現実は、国の思惑とは逆の方向に進んでいます。

2022.12.20記

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