最近、経済学者の吉川洋氏の講演を聞く機会がありました。吉川氏は東京大学の名誉教授(立正大学学長)で、政府の社会保障国民会議の議長を務めるなど、日本経済のご意見番ともいえる存在です。今回の講演のテーマは「人口と日本経済」。講演は、話が脱線してしまったこともあり、時間不足に終わりましたので、3年前の著書『人口と日本経済-長寿、イノベーション、経済成長』(中公新書)を参照して、吉川氏の主張をご紹介いたします。そして、それに対する私の考え方も記載します。
同書では、経済学者らしく、人口に対する往年の経済学者の見解を紹介しています。ヨーロッパでは、産業革命後に人口が急激に増えました。それを受けて経済学者たちも人口問題に言及するようになりました。経済学の父と言われるアダム・スミスは有名な「国富論」で「人口の増加が多いほど国は繁栄する」と述べています。
それに反論をしたのがマルサスで、「人口論」という著書で「貧困が解消されると、人口は食料の増産よりもはるかに大きく拡大する」と述べています。「子どもを産んでも育てられない」といいう不安が晩産化、晩婚化となり、それが人口の増加を抑制している、と見ています。まるで、今の日本を言い当てているようですね。
今よりもはるかに人口が少なかった、200年以上も前から人口が増えすぎることを心配する声はあったのです。実は日本でもずっと人口過剰が問題になっていて、戦前戦後を通じてハワイや南米に多くの移民が渡ったのは日本の人口を抑えるためでした。戦前に満州に進出したのも、人口問題が要因です。今よりも人口は少なかったのですが、「人口が多すぎる」ことが悩みのタネでした。今になって人口減が問題になっているのは隔世の感があります。
だから、というわけではありませんが、「人口が減少すると経済成長は停滞する」という見方に対して著者は反論します。明治以来150年間の日本の人口と国内総生産(GDP)の推移を比較すると、国内総生産(GDP)の方がはるかに大きく増えています。人口も増えてはいるのですが、明治の始めに比べて4倍程度です。それに対して国内総生産(GDP)は約3,500倍にもなっています。それはひとえに、「1人当たり国内総生産(GDP)」が増えているからです。人口が変わらなくても(あるいは少し減っても)、1人当たりの国民が作り出す価値が大きくなれば経済成長していく、というわけです。
そして、「1人当たり国内総生産(GDP)」の増やす最大の要因は
① 新しい設備や機械をもたらす「資本蓄積」
② 広い意味での「技術革新」、つまり「イノベーション」
だとしています。特に②については、科学技術の進歩だけでなく、新しい経営ノウハウやビジネスの登場など、広い意味での〝革新〟を指しています。
そして、AI、ITの発達などが、新たな技術、サービスを生み出していると、注目しています。
また、日本で心配されている、少子高齢化についても、高齢者の増加が新たなビジネスをもたらすとして、大人用紙おむつの例を挙げています。それまであった、子供用紙おむつは少子化で需要が頭打ちとなりました。新たに生まれた大人用紙おむつに、生産面の技術革新があったわけではありません。誰かが大人向けの紙おむつを思いついたために、新たな市場が生まれた。これこそが「イノベーション」なのです。
「日本は人口が減るので、経済成長は望めない」という悲観的な見方が多数を占めているが、けっしてそのようなことはない。人口が増えなくても「イノベーション」によって新たな市場を開拓し、「1人当たり国内総生産(GDP)」を増やすことで経済成長はできる、と吉川氏は訴えます。
ここからは、私の意見です。なるほど、と思いました。人口が増えなくても経済成長はできるのだと思います。国際的に見ても、日本の「1人当たり国内総生産(GDP)」は、先進国の中でけっして高くはありません。これが拡大する余地は十分にあり、人口減の中での経済成長は可能だと思います。
ただし問題は、日本が国際的に見て「イノベーション」が活発に起きるか、ということです。この点について私は懐疑的です。例えばキャッシュレス化などは、もはや中国、韓国にも遅れています。技術があっても商品化できない、あるいは広く国民に普及しない、という面があるのではないかと思います。調べたわけではないので、軽々には言えませんが、その原因としては新興企業が生まれにくい、成長しにくい環境があるのではないかと考えます。いつの時代も、どの国でも、イノベーションをもたらすのは、既存の大手企業でなく、新興企業です。人口が減るからではなく、イノベーションの不足で、日本の経済停滞は続くのではなかと心配しています。
そう考えると資産運用においても、日本国内に投資するのではなく、世界に目を向けるべきではないでしょうか。
2019.9.19記

