ジャクソンホールの影響

アメリカのジャクソンホールという避暑地で毎年、金融経済のシンポジウムが開催されています。先進国の中央銀行首脳や経済学者が集まり、講演が行われるので、たびたび注目されます。今年の会議では、2つの講演が注目を集めました。1つはアメリカ連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長の講演です。もう1つは日本銀行の黒田総裁の講演です。

パウエル議長の講演では、物価上昇を抑えるために、断固として金融引き締めを続けることが述べられました。そのためには、「企業や家計に痛みをもたらす」とも言っています。これは、インフレを抑えるためであれば、景気後退に陥ってもやむを得ないということです。中央銀行(アメリカの場合は連邦準備理事会)には、インフレの抑制と景気拡大という2つの目標があります。しかし、これを目指す政策は正反対ですので、両方同時に行うことはできません。そのため、どちらかより深刻な方に比重を置いて政策を実施しますが、アメリカの中央銀行は、インフレの抑制に集中して取り組むと宣言したわけです。

すでに以前からパウエル議長はインフレ対策に集中することを明言していましたが、景気の先行きに不安が生じてきており、その注力を少し緩めるのではないか、との期待が出てきました。ジャクソンホールでのパウエル議長の講演は、そのような期待を見事に打ち砕くものでした。その日のNYダウは1,000ドル以上も下落しました。今年の6月から上昇していましたが、その分が取り崩されたわけです。

パウエル議長は講演で、今後も金融引き締めを継続していくことを明言しました。すると、アメリカの株式市場はもうしばらくの間、調整が続くことが考えられます。S&P500指数は、うまく景気後退を避けられた場合で3,400ポイント、景気後退に陥った場合は3,000ポイントぐらいまで下がるのではないか、との見方があります。時期としては早ければ年末年始頃、長く続くようであれば来年前半までとなります。

 

注目を集めたもう1つの講演が、日本銀行の黒田総裁によるものです。アメリカもヨーロッパもインフレ抑制に躍起になる中、「金融緩和を継続する」と明言したからです。世界の先進国の中で、日本だけはインフレよりも景気回復を重視する、というわけです。日本でもこのところ物価が上昇してきており、さらなる物価上昇が心配されています。しかし黒田総裁は、日本では来年には物価上昇率が低下するとして、景気対策を継続していく意向です。

そうなると、アメリカと日本の金利差はますます広がっていくばかりです。アメリカで金利が上昇するのに対して、日本は低いままだからです。「日本で預金をするよりは、アメリカで預金をする方が得だ」ということで、日本円をアメリカ・ドルに換える動きが強まります。

9月1日に24年ぶりに、1ドル=140円となったのもつかの間、8日には1ドル=144円となっています。投機的な取引が相場をあおっている面がありますので、円安ドル高がどこまで進むのかは予想がつきません。早ければ年末年始頃、長く続くようであれば、来年前半まで、円安ドル高〝傾向〟は続く可能性がありますが、どこが天井となるかはわかりません。急に逆に動く可能性も十分にあります。

黒田総裁がジャクソンホールで講演したように、日銀は当面の間、低金利政策を続けるつもりです。そして、そのことによって為替相場は円安ドル高傾向が続くと考えられます。日本経済は、全体的に見ると、景気に力強さはありません。今年も来年もようやくプラス成長が期待できる程度です。しかし、輸出や海外投資からの利益還流が見込める大企業では増益が期待できそうです。新型コロナの感染拡大の影響もあり、国内需要はまだまだ厳しい状況が続きそうですが、大企業が多い株式相場ではプラスの面の方が大きいでしょう。

さらに、アメリカの株式市場は、今年に入ってから下がっているとはいっても、まだまだ企業利益に比べて〝割高〟な状況です。昨年までのバブル相場で上がりすぎているのが、まだ解消されていません。それに対して日本の株式は割安です。実際、今年の株式相場の動きを見ると、アメリカは大きく下がっているのに対して、日本はあまり下がっていません。まだアメリカの相場に振り回される面はありますが、今後は日本の株式市場に注目していきたいものです。

2022.9.9記

質問はこちらから