4月8日をもって黒田東彦氏が日銀総裁を退任しました。10年間にわたって〝異次元〟の金融緩和を続けてきましたが、その政策には賞賛と批判の両方をこれほどまでに集めた人もいないでしょう。
賞賛の方は、「今まで誰もできなかった大胆な金融緩和政策で、株高と円安をもたらし、失業率を改善させた」というものです。一方の批判は、「異次元緩和を10年も続けたことで、市場と財政規律をゆがめた」というものです。
どちらも正しい指摘です。当初は、予想を市場の超える大胆な政策を相次いで打ち出し、「黒田バズーカ」などともてはやされました。しかし、もともとは2年間の期間限定の政策だったのが、景気がなかなか浮揚せず、止めるにやめられなくなり、10年も続けてしまいました。異次元の金融緩和は壮大なる実験でしたが、結局「金融政策だけでは景気を良くすることはできない」という結果が証明されたと言えるでしょう。
ただ、2022年の消費者物価上昇率は2.5%となっており、とうとう目標の2%を達成することはできました。最近では賃金の引き上げも相次いでおり、一概に失敗とも言えません。財政規律が緩んだとの指摘もありますが、こちらは政府の責任の方が大きいでしょう。黒田氏の政策の評価には、もう少し時間がかかるのかもしれません。
海外の方は、不穏な動きが出ています。3月にアメリカでシリコンバレーバンクとシグネチャーバンクという2つの銀行が破綻しました。有名な金融機関ではありませんが、銀行の破綻では過去2番目と3番目の規模だそうです。テレビの映像では、銀行の前に行列ができる〝取り付け騒ぎ〟がありませんでしたが、多くの預金者はネットで預金の引き出しをしていたようです。これからは銀行の破綻が起きても、取り付け騒ぎは起きないということですね。続いて、世界的な金融機関であるクレディ・スイスが破綻したというニュースも出ました。いずれも、金利の上昇で債券価格が下落していることが影響しているようです。集めた預金を債券で運用していましたが、債券価格の下落で損失が拡大したようです。
今後、金融機関の破綻が増えるかは、微妙なところです。海外では他の金融機関でも不安な動きも起きているようですが、リーマンショック以降、金融機関の安全性は向上しており、同じようなことが起きる心配はないという見方もあります。アメリカでは、破綻した2つの銀行の預金を全額保護するという異例の措置を取りました。スイスでは、政府も関与して、UBS(ユニオンバンク・スイス)がクレディ・スイスを吸収合併しました。
2008年の世界金融危機のようなことが再び起きるのでしょうか?
この時は、リーマンショックが衝撃的でしたので、大手金融機関が突然倒産したような印象ですが、その予兆はかなり前からありました。2006年頃から金利の上昇で、サブプライム・ローンという住宅ローンを返済できない人が増えだし、2007年の7月にヨーロッパの金融機関がサブプライム・ローン関連のファンドを閉鎖するという事件が起きました。この時が金融危機の始まりでした。その時は、(よく覚えているのですが、)「確かに懸念すべき事態が起きているが、一時的なもので、経済全体に影響を与えるものではない」という見方が中心でした。
「ただごとではない」と感じるようになったのは、2008年3月にベア・スターンズという大手金融機関が破綻し、さらに日本の住宅金融公庫に相当するフレディマック、ファニーメイという政府系の住宅金融機関が破綻してからでした。ここから金融機関に対する信用不安の連鎖が始まり、リーマン・ブラザーズが破綻するのは同年9月のことです。後から見ると、この年の1月から景気後退に入っていたようです。
おかしな兆し(2007年7月)が出てから、大きな破綻が相次ぐまでに8ヵ月の時間がかかっていたのです。今年の3月を、当時の2007年7月となぞらえると、今年の11月に大きな現象が起きても不思議ではありません。早々に、影響があるとか、ないとか、結論付けてはいけないのでしょう。
今のアメリカは、今後「景気後退に陥る」との予想が次第に強くなってきています。しかし、実際には好景気が続き、相変わらず人手不足で物価の上昇が続いています。一時期、景気後退への不安から、FRB(連邦準備理事会)による金利の引き上げが打ち止めになるのではないかとの見方が出ました。しかし、FRBとしては今後の不安よりも目先の問題(物価高)に対処する方が重要です。今後も金利を引き上げることを示唆しています。2008年の世界金融危機も、最初の原因は2006年頃の金利上昇で住宅ローンを返済できない人が増えたことです。確かに、リーマンショックの頃と比べると、金融機関のリスク管理は徹底されていますが、同じようなことが起きないとも限りません。平穏な状況がしばらく続いたとしても、今年いっぱいは何が起きても不思議ではないと言えるでしょう。
2023.4.9記

