新型コロナの感染者数は、このところまた増加傾向にあります。4月頃のように医療現場がパニックにはなっていないということで、緊急事態宣言こそ出されていませんが、感染者の数自体はその頃よりも増えています。コロナとの戦いは当分続きそうです。
そして、経済状況は深刻な打撃を受けています。先日、4-6月期のGDP(国内総生産)の成長率が発表になりました。前期(1-3月)比で▲7.8%。このペースが1年続いた場合の「年率換算」ではマイナス27.8%となりました。現在の形で統計を取り始めた1980年以来、最大の落ち込みです。リーマン・ショックの時が、同じ年率換算で▲17.8%でしたから、いかに今の落ち込みぶりがひどいかがわかります。
確かに、ほとんどの飲食店が自主休業に追い込まれ、「ステイ・ホーム」と家から出ないようにと繰り返し言われましたので、事実上経済がストップしたような状況でしたから、大幅に落ち込むのもやむを得ないところです。
問題は今後の回復です。一時的に大きく落ち込んでも、その後にすぐに回復すれば、影響は限定的です。回復が早ければ、最悪期からの上昇率が高くなるわけで、GDP成長率は高くなります。
ただ、最近また感染者数が増えている状況を考えると、経済も回復には時間がかかるように思います。政府は「Go Toトラベル」などの需要喚起策を打ち出していますが、イベントなどの中止もまだ多く、経済の回復には時間がかかりそうです。ところが、それに反して、株式相場は〝元気〟です。
新型コロナの感染がヨーロッパでも拡大し始めた2月後半から株式相場は暴落しました。その暴落は3月下旬まで1ヶ月続き、約30%下落しました。しかし、コロナの状況をよそに、そこからは急回復を演じ、半年後の最近(8月後半)では、ほとんど下落前の水準まで戻っています。
右のグラフは、株式相場の暴落が始まった時点からの日経平均株価を、ITバブル、リーマン・ショックの時と比べたものです。〔月末の株価で作成していますが、今回の下落(赤線)だけは、3月末ではなく、最安値を表示しています。〕
GDPの成長率の落ち込みはリーマン・ショックの時よりもはるかに大きいのですが、株価の下落はリーマン・ショックの時の方が大きくなっています。リーマン・ショックの時は、下落が1年半続き、約60%も下がりました。そして回復には約7年を要しています。
その前のITバブルの崩壊の時は3年間下落が続き、やはり60%程度下がりました。7年後に、下落前の9割程度まで戻しましたが、結局もとの水準までは戻らずに、リーマン・ショックに突入してしまいました。これらと比べると、今回の下落がいかに軽微なもので済んだかがわかります。
この傾向は日本だけでなく、アメリカも同様です。アメリカこそ、新型コロナの感染者数、死者数とも世界一で、深刻な影響を受けています。4-6月期のGDPは年率換算で▲32.9%で、1947年の統計開始以来、最大の落ち込みです。リーマン・ショックの時は▲8%だったのですから、その落ち込みぶりがわかります。
もちろんアメリカもコロナの危機から立ち直ったわけではなく、まだまだ影響は続きそうです。経済の回復にも時間はかかるでしょう。にもかかわらず、アメリカの株式市場も急回復しています。3月こそ、暴落前の38%まで下落しましたが、その後は回復に向かい、8月後半の現在は、ほぼほぼ、下落前の水準まで回復しています。
この回復を支えているのが、中央銀行による〝大胆な金融緩和〟です。アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備理事会)は、リーマン・ショックの後、3回の大胆な金融緩和を行いました。QEⅠ~Ⅲと呼ばれており、「中央銀行がここまでやるのか」と驚かれましたが、今年に入ってからの金融緩和は、この3回分を合わせた規模です。それを半年ぐらいの期間で行っているのです。
日本でも大胆な金融緩和を行っています。日本銀行は、黒田日銀総裁が就任した2013年から大幅な金融緩和政策を一貫して続けていました。そして、今年に入ってからは、そのペースをさらに上回る規模で金融緩和を行いました。GDPに対する中央銀行の資産(金融緩和の規模)は、アメリカよりも高く、先進国一のペースです。
ヨーロッパでは、ECB(欧州中央銀行;EUの中央銀行)が積極的に金融緩和を実施しています。ECB総裁の「できることは何でもやる」という言葉がその姿勢を示しています。
中央銀行が金融緩和を実施して資金を供給するのは、景気を回復させるためです。大量の資金が市中に供給されると、お金を借りるための金利が低下して借りやすくなり、投資や融資が増える、ということを期待しています。
しかし、それでも先行きが不安だと、低金利でも事業への投資が増えずに、そのお金が株式市場などに流れ込み、株式が買われる、というわけです。最近は株式だけでなく、金(ゴールド)も上昇していますが、同じ理由です。
さて、金融緩和で溢れかえった資金が株式市場に流れ込み、株価が上昇します。それによって景気の先行きに期待を持つ人が増えれば、実際の投資も増えていき、本当の景気回復につながっていきます。しかし、ただ単に株が上がっているだけで、景気の方がいつまでも良くなる期待が持てないようだと、いずれ株価の上昇も収束してしまうでしょう。
中央銀行の大胆な金融緩和で株価だけが上がった状況から、本当の景気回復につながるかが、今後の株式相場を左右するポイントになるでしょう。
ただ1つだけ言えることは、リーマン・ショック以来、各国の中央銀行の役目が変わってしまったようです。中央銀行は「物価の番人」と呼ばれ、インフレを防ぐことが役目とされてきました。しかし、リーマン・ショック以来は「金融危機を防ぐ」ことが目的になっています。株価が暴落するような事象が発生すると、狂ったような勢いで資金を供給するようになっています。今後も暴落が起きるような問題が発生すると、各国の中央銀行は後先を考えずに紙幣印刷の輪転機を回すことになるでしょう。
2020.8.23記

