マンションの相続税評価額の変更(後半)

前回の「マンションの相続税評価額の変更(前半)」の続きです。冒頭部分、少し重複します。

マンションの相続税評価額はこの式のようになっていました。

マンションの土地の相続税評価額=路線価×マンションの敷地面積×敷地権割合

高層マンションでは、敷地に余裕をもって建てられていますが、それでも一定の建物の面積に30階、40階と部屋が入っていますので、1つの部屋の敷地権割合はかなり小さくなります。ということは、高層マンションの一室を保有している人の土地の評価額はかなり小さくなります。さらに、高層マンションでは、高層階は低層階に比べて価格が高いのが一般的です。ところが、この式には敷地権割合しか反映されておらず、何階にあるのかは考慮されていません。すると、高層階の部屋は、市場価格が高いにもかかわらず、相続税の評価額は低い、ということになります。このことが、相続税の節税対策をしたい人には好都合だったのです。

今回の改正では、一定の式で「おおよその市場価格」を推計することにしました。上記で計算した相続税評価額が、「おおよその市場価格」の6割以上であれば、今までどおりの相続税評価額を使います。6割よりも低くなっている場合は、6割程度になるように相続税評価額を修正します。高層マンションなどでは、相続税評価額が市場価格の半分以下となっているケースが少なくありませんので、そのような場合は、修正してください、ということです。

具体的に算式を確認します。最初に、計算に使う数値を用意します。

  • 築年数
  • 総階指数=マンションの最上階の階数÷33
  • 所在階数:保有している部屋の階数です。
  • 敷地持ち分狭小度=敷地権割合で計算した持ち分の面積÷実際の部屋の面積

以上の数値を次の式に入れて、評価乖離率を算出します。

評価乖離率=3.22-①×0.033+②×0.239+③×0.018-④×1.195

「評価乖離率」とは、一般的な言葉ではありませんが、「市場価格が相続税評価額の何倍か」を表します。上記式の3.22とか、0.033といった数値に特別な意味はありません。相続税評価額と実際の市場価格を実際に比べてみて、近くなるようにいろいろと数字をいじってみて、当たらずとも遠からず、で出した数字でしょう。そもそも不動産は、株式相場のような明確な市場価格といったものはありません。実際に取引される価格は、売買する人の事情で大きく変わります。それも踏まえて、「だいたいこんなものだろう」というのが不動産の市場価格で、その価格が相続税評価額の何倍かを算出するというのだから無理があります。

「市場価格が相続税評価額の何倍か」がわかれば、逆に「相続税評価額が市場価格の何割か」もわかります。それが下の式の「評価水準」です。

評価水準=1÷評価乖離率

  • 評価水準が0.6(相続税評価額が市場価格の6割)以上であれば、今までどおりの相続税評価額をそのまま使います。
  • 評価水準が0.6(相続税評価額が市場価格の6割)未満であれば、相続税評価額が低すぎますので、修正を加えます。以下を新しい相続税評価額とします。

相続税評価額×評価乖離率×0.6=修正された相続税評価額

「相続税評価額×評価乖離率」は、おおよその市場価格となりますので、その6割の金額を相続税の計算に使いなさい、ということです。

  • 評価水準が1より大きいケースは、相続税評価額がおおよその市場価格よりも高い場合です。その場合も相続税評価額を修正します。

相続税評価額×評価乖離率=修正された相続税評価額

となります。評価乖離率は1より小さい数字になっていますので、修正されることで相続税評価額は小さくなります。

ちなみに、評価乖離率が0以下になるケースも考えられますが、その場合は修正を行いません。評価水準が算出できないからです。

なんだか面倒な計算が必要になりそうです。今年中には国税庁のサイトに計算の画面ができ、そこに上記の数字を入れると、計算結果が表示されるようになると思います。ここでは、今回の変更で、どのような影響があるかを考えてみましょう。

最大のポイントは、高層マンションを購入することで相続税の節税を図る「タワマン節税」ができなくなるということです。「タワマン節税」は、市場価格と相続税評価額の差が大きいことで節税ができます。できるだけ市場価格が高い、タワーマンションの高層階を購入することで、相続税の節税を図ります。しかしこの改正で、相続税評価額は市場価格の6割以下になる場合は、6割とするように修正されますので、大きな節税はできなくなります。ただ、6割の評価ですので、まったく節税にならないわけではありません。今までのような極端な節税はできませんが、それでも節税の効果はあります。

評価乖離率の算式を見ると、3.22倍となるところを、「築年数」「マンションの総階数」「部屋の階数」「敷地持ち分狭小度」で調整していることがわかります。「マンションの総階数」「部屋の階数」はプラスの項目ですので、高いマンションの高い階数の部屋ほど評価乖離率は高くなります。実際にそのような部屋ほど市場価格は高い傾向にあるので、現実に即していると言えるでしょう。「築年数」はマイナス項目ですので、築年数が経過しているほど評価乖離率は低くなります。築年数が経過すると市場価格は下がりますので、理解はできますが、土地の相続税評価に築年数が影響を受けるのは奇妙な気がします。

4項目の中で一番影響が大きいのが、「敷地持ち分狭小度」です。これはマイナス項目ですので、この数値が高い方が評価乖離率は低くなります。「敷地権割合で計算した持ち分の面積÷実際の部屋の面積」が小さくなるのは、部屋数の多い高層マンションです。この点を考慮すると、高層マンションが一概に不利になるわけではありません。先ほど述べましたように、上記の式は市場でのマンションの売買価格を見ながら、それに近い結果となるように調整して作った算式です。今後、マンションの以上価格が変化していく中で、人気が変わっていくと、実際の市場価格と計算式にズレが生じ、有利な物件、不利な物件が生まれるかもしれません。

まとめますと、来年(2024年)から、相続税の計算においてのマンションの評価額の計算方法が変わります。タワーマンションを使った、極端な節税策は使えなくなります。すでに購入したマンションについても使えません。それでも、相続税評価額は市場価格の6割程度とすることはできますので、節税の効果が亡くなったわけではありません。極端な効果はないものの、依然として節税の効果はあると言えます。

2023.11.6記

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