9月19日に国土交通省から「令和5年都道府県地価調査」の結果が公表されました。これは、毎年7月1日時点における、全国約2万地点で調査された地価の状況です。1月1日時点の地価である「公示価格」に対して、こちらは「基準地価」といわれています。この2つで、今の不動産価格の状況を見ることができます。今年の地価調査から、最近の不動産の傾向を見ていきましょう。
ようやく新型コロナの感染が落ち着き、国内の景気は着実に回復が続いています。国内そして海外からの旅行客がコロナ以前の水準に近付いており、その影響が地価の動向にも影響しています。そして、昨年までに見られた傾向が続き、さらに強化されているという印象でした。まず大きなポイントを挙げると、
- 全国平均では、住宅地・商業地とも2年連続で上昇しており、上昇幅が拡大している。
- 全国平均の住宅地の上昇率:7%
- 全国平均の商業地の上昇率:5%
- 三大都市圏、地方中核都市では、住宅地・商業地ともに上幅が拡大している。
- 住宅地の上昇率 三大都市圏2%、地方中核4市7.5%
- 商業地の上昇率 三大都市圏0%、地方中核4市9.0%
※地方中核4市は、札幌市、仙台市、福岡市、広島市
- その他の地域では、商業地は32年ぶりに上昇に転じたものの、住宅地は下落が続く。
- 住宅地の上昇率:▲2%
- 商業地の上昇率:1%
昨年、住宅地の全国平均が31年ぶりにプラスに転じましたが、今年は商業地とともに上昇幅が拡大しており、全国的に地価ははっきりと上昇傾向にあると言えるようになりました。ただ、中身を見ると、下落が続く地点も多く、格差は広がっているようです。首都圏、中京圏では、住宅地・商業地ともに大きく上昇しており、さらに関西圏では今年になり商業地の上昇が急上昇しました。それ以上に上昇しているのが、広島を除く地方中核都市(札幌、仙台、福岡)と沖縄です。札幌、仙台、福岡は依然として地方から人が集まる傾向が続いているようです。広島は、地価は上昇していますが、他の3都市のような勢いはありません。沖縄は、地方中核都市ではありませんが、住宅地・商業地とも大きく上昇しています。
地価、特に商業地は景気の影響を受けますので、景気の回復とともに上昇する地点が増えてきています。その影響が地方都市にも波及しています。ただし、人口減の影響は確実に表れており、住宅地については下落が続いています。
地価が上昇した都道府県、県庁所在地のランキングを見ると、傾向がはっきりします。
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住宅地 |
商業地 |
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都道府県の平均 |
県庁所在地 |
都道府県の平均 |
県庁所在地 |
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1位 |
沖縄県 4.9% |
札幌市 12.5% |
福岡県 5.3% |
札幌市 11.9% |
2位 |
福岡県 3.3% |
福岡市 8.2% |
沖縄県 4.8% |
福岡市 11.2% |
3位 |
東京都 3.0% |
仙台市 7.1% |
東京都 4.5% |
仙台市 7.8% |
4位 |
千葉県 2.5% |
東京23区4.2% |
神奈川県、大阪府 |
大阪市 5.5% |
5位 |
北海道 2.2% |
名古屋市 3.9% |
横浜市、名古屋市5.3% |
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全国平均 |
0.7% |
1.5% |
まず、広島を除く地方中核都市の上昇が目を引きます。その中でも福岡は、福岡市だけでなく、全体的に住宅地・商業地ともに上昇しているのがわかります。逆に仙台市は住宅地・商業地ともに3位ですが、宮城県は出てきません。仙台市の上昇が周辺地域に及んでいないようです。北海道は札幌市が両方でトップとなっていることもあり、都道府県としても住宅地で5位に入っていますが、地域による差はかなり大きくなっています。
沖縄では、ランクにこそ入っていませんが那覇市は上昇が大きく、その他の地でも上昇しています。関西圏では、商業地が今年になって大きく上昇しました。海外からの旅行客が再び訪れるようになり、インバウンド需要が回復していることが要因になっていると考えられます。
首都圏は、県庁所在地以外も上昇しており、都道府県でのランクインとなっています。上記は、全国の都道府県と県庁所在地でのランキングですが、ベスト5には、三大都市圏、地方中核都市、沖縄遺体の地域はまったく入っていません。これらの地域の上昇が大きく、全国平均をプラスにしているのがわかります。
全国2万か所の基準地から、特に変動が大きい地域を見てみます。住宅地の上昇率ベスト10のうち、9つが北海道で、そのうち5つが千歳市です。この理由は、千歳市に半導体工場の建設が予定されており、建築関係や工場労働者を見込んで住宅地が急上昇しているためです。商業地の上昇率ベスト10では、千歳市が3つ(北海道では6つ)で、熊本県菊池郡が3つ入っています。こちらにも半導体工場の建設が進められており、その関連需要を見込んだ上昇です。
一方、下落幅が大きい地域も公表されていますが、ベスト10のうち、住宅地で8、商業地で6も入っているのが北海道です。北海道は、上昇率でも下落率でも全国の上位になる地点が多く、変化の差が大きい地域です。かつては中国人の投資でニセコ周辺が上昇し、昨年は野球場建設と札幌近郊ということで恵庭市や北広島市が上位に入り、今年は千歳市と目まぐるしく動いています。
住宅地でも商業地でも下落率1位となったのは石川県珠洲市ですが、これは地震が頻発した影響でしょう。ただ、もともと過疎化が進んでいるという要因もあるでしょう。
首都圏の住宅地では、常磐線の我孫子市(千葉県)や湘南地区の茅ヶ崎市(神奈川県)などの上昇幅が大きくなっています。自然環境が豊かでありながら、交通の便もよい郊外でマイホームを購入する人が多いようです。商業地では、浅草周辺や銀座周辺で上昇しています。こちらもインバウンド需要を受けてのことでしょう。
2023.9.19記