2024年 住宅ローン金利と不動産市況の見通し

今年の住宅ローン金利と不動産市況の見通しについて考えてみたいと思います。年始には雑誌やネットなどで「今年の予想」がしばしば掲載されますが、当たるかどうかは難しいところです。経済にはプラスの要素、マイナスの要素とさまざまな要因が同時に存在しており、そのうちどれが強く作用するかで状況が変わってきます。どれを重視して見るかで〝予想〟は変わってきますが、元々の強気に見る、あるいは慎重に見るという判断傾向にも左右されてしまいます。現実の経済状況だけでなく、予想する人の性格にも影響されるわけです。ここでは、経済誌に掲載されたエコノミストたちの見方をまとめて、わかりやすくご紹介していきます。

 

<住宅ローン金利の見通し>

住宅ローン金利もお金を借りた場合の金利ですので、その他の多くの金利(市場金利)の影響を受けて動きます。市場金利を動かす主な要因は、①景気の動向、②物価の上昇、③日本銀行の金融政策、が挙げられます。これらを要因としながら、実際の日々の動きは長期金利については、東京証券取引所で取引される日本国債10年物の利回りが指標となります。住宅ローンの固定金利はこの動きを見ながら、金利が設定されています。一方、短期金利は銀行間での毎日の資金のやり取り(無担保コール翌日物)が指標となります。住宅ローンでは変動金利の指標となっています。

住宅ローンの固定金利に影響を与える日本国債10年利回りの動きを振り返ります。昨年は、年後半から利回りが上昇してきています。2023年は景気が回復傾向になり、さらに物価は数十年ぶりの上昇率となりました。金利が上昇していく要素が2つ揃いました。一方、日本銀行は「ここで金利が上昇すると景気回復が妨げられる」と金利が上がらないように手を加えていました。3月までは0.5%でほとんど動きがありませんでしたが、それは利回りが0.5%以上にならないように日銀が手を加えていたからです。本来は国債の動きに日銀が介入するのはご法度とされていましたが、リーマン・ショック以降、非常事態として行われていました。「イールドカーブ・コントロール(YCC)」と言われる政策です。日銀は7月に上限を1.0%とし、10月にはそれ以上も容認する姿勢を打ち出しました。はっきりと明言はしていませんが、YCCを形骸化していく方針です。ある程度までなら、長期金利は上昇しても構わないというのです。これを受けて、住宅ローンは長期固定金利のタイプを中心に金利が上昇しました。35年間固定金利のフラット35(9割以下)は、1.30%から1.96%まで上昇しました。ただ、年末になって国債の利回りが下がっていますので、日銀が介入を控えるようになっても一本調子で金利が上昇していくわけではなさそうです。

一方、短期金利は日銀の政策をより強く受けますが、依然としてマイナス金利が続いています。日銀がマイナスになるように維持しているからです。昨年は、マイナス金利の解除を見送りましたが、今年にはゼロ金とし、さらにはプラスの金利(本来の金利の姿)にしていくのではないかとの見方が強くなっています。住宅ローンは、固定金利が上昇したものの、変動金利はむしろ少し下がっています。長期の固定金利との差はますます広がり、変動金利が人気となりました。最近では、住宅ローンを組む人の7~8割が変動金利を選択しています。

では、今年の金利の見通しはどうでしょうか? エコノミストなどの金融市場の専門家の見方を集約すると、一番多い予想は、長期金利は1%程度にとどまる、短期金利は0.25%程度まで上昇するというものです。長期金利では、すでにYCC(日銀の介入)が形骸化されてきていますので、急変でなければ、市場の動きに任されますが、今年は昨年ほどには景気が回復せず、インフレもある程度は落ち着くとの見方が多いからです。日銀の影響が強い短期金利では、4月ごろにマイナス金利が解除されてゼロ金利(0%前後)となり、秋以降にもう1回の引き上げるのとの予想が多くなっています。インフレを抑えるには金利を引き上げる必要がありますが、景気の足を引っ張らないためにも、慎重に、ゆっくりと金利を引き上げていくと見ています。

そうすると住宅ローンでは、長期固定のフラット35では2%前半ぐらいになると予想されます。変動金利は1%程度まで上昇する可能性があります。それでも低い金利には変わりありませんので、住宅需要はそれほど落ち込むことはないでしょう。

注意しておきたいのは、予想以上にインフレが進むと、さらに金利が上昇する可能性があることです。日本でも「物価が上がる」ということが珍しくなくなりました。企業もかつてに比べると値上げしやすい雰囲気になっており、人手不足もあいまって、一昨年のアメリカのような物価上昇(前年比8%もの上昇)が起きる可能性がないとは言えません。そうなると、金利はさらに上昇します。長期金利が2%になると長期固定のフラット35は3%ぐらいにはなるでしょう。短期金利が1%になると、住宅ローンの変動金利は2%ぐらいになってもおかしくありません。固定金利の場合は、住宅を購入する時点で金利が確定しますので、予想以上に金利が上昇したら、購入を見合わせることもできます。しかし、変動金利は半年ごとに金利が見直されますので、すでにローンを返済している人も影響を受けます。毎月の返済額は一度に25%以上は上昇しないようになっていますが、それが続くと、数年後には毎月の返済額が倍にならないとも限りません。変動金利でローンを組む場合、あるいはすでに組んでいる人は、その可能性も考えておかなければなりません。「その可能性は高いのか?」を検討するのではなく、そうなった時にどうするかを検討しておく必要があります。ことあるごとに申し上げていますが、変動金利を利用してもよいかは、予想外の金利上昇が起きた時に対応できるかどうかで決まります。今年はその可能性がないとは言えないだけに、十分な資金計画が求められます。

 

<不動産市況の見通し>

昨年は、首都圏の新築マンションの販売価格が平均で1億円を超えたと話題になりました。東京23区内では平均価格が2億円を超えています。金利が低く、借入可能額が大きくなったとはいっても、驚かされます。今年は金利が上昇することが予想されますので、昨年と比べると販売価格の上昇は抑えられるでしょう。しかし、それでも低金利であることには変わりありませんので、都市部では新築マンションの販売価格は上昇していくでしょう。それを受けて、中古のマンション価格も上昇しますし、地価の上昇も続くでしょう。資材価格や人件費の上昇は、今年になっても収まりそうもありませんので、それもマンションや戸建ての販売価格、注文住宅の建築費に反映されていいきます。

住宅価格が上昇している要因には、低金利で住宅ローンの返済負担が軽くなっているという面が大きいのですが、それ以外にも、住宅ローン控除を大きく使いたい、相続税対策として購入したいという面もあるようです。住宅ローン控除については、ローンの金額を大きくすることで所得税の減税が大きくなります。しかし、上限枠が縮小されていますので、その効果は徐々に小さくなっています。相続税については、不動産を購入することで減税の効果があるので、あえて高いマンションを購入している富裕層が増えているようです。

これに加えて、もう1つ要因が生じてきています。売却益を狙う人が増えているのです。バブル期のように、購入してすぐに転売するわけではないのですが、いずれ売却することを考慮に入れながらマンションを購入する人が増えているというのです。不動産価格の上昇が続いていますので、数年後に購入価格よりも高い価格で売却できると考える人が現れてもおかしくありません。実際に新築時よりも値上がりしている中古のマンションも出てきています。中古で価格が下がりにくい(または上がりやすい)と言われているのが、都心部の駅から近い、利便性の高い物件です。そのような物件は新築時でも価格が高いのですが、そういう物件ほどさらに上がりやすいということで高額物件を購入する人が増えているようです。数年後に売却するのであれば、定年までに住宅ローンを完済できる必要もないわけです。高級マンションに住みながら、その間の住居費の負担が実質的にゼロになり、さらに値上がり益まで手にすることができれば、言うことありません。マンション価格が高いほど、住居費が安上がりになり、利益も得られるとなれば、多少無理しても高額のマンションを購入しようという気持ちにもなるでしょう。

このようなケースが増えてくると、不動産価格はますます上昇していきます。今年はその傾向がより強くなるのではないかと見ています。多少金利が上がるぐらいの方が、駆け込み需要は増えて購入者が増えるものです。ただし、さらに金利が上昇すると、需要は急減して不動産価格は下落に向かいます。それはもう少し先のことでしょうか。

2024.1.5記

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