2021年の公示価格から

3月末に、国土交通省から全国の公示価格が公表されました。そこから、コロナ後の不動産価格の影響を見てみます。
内容に入る前に、「公示価格」について確認してみましょう。株式相場では、毎日多くの銘柄が活発に売買されていますので、株式市場に上場している株式であれば、時価(今の価格)はすぐにわかります。しかし、不動産はそれほど頻繁に売買されるわけではありません。しかも、その価値は均一ではなく、1件1件異なります。

そのため、不動産の価格はわかりにくくなっています。実際の取引でも、売り急ぎや買い急ぎなど、個別の事情で大きく変化します。そのため、適正な価格が明確ではありませんが、取引の参考になるようにと、国土交通省や都道府県が調査をして、参考価格を公表しています。いずれも、基準となる地点で建物が建っていない更地が売買される際の価格を、近隣の取引事例などを参考に推計しているものです。よって、実際の売買での価格とおおむね相違はないものと考えられます。

国土交通省が、1月1日時点での価格を調べたものが「公示価格」で、3月下旬に公表されます。都道府県は7月1日時点の価格を9月下旬に公表しており、こちらは「基準値標準価格」といいます。どちらも公表されると、地価の動向として報道されています。

2021年の公示価格は3月23日に公表されましたが、コロナ後の動向を占うものとして、注目されました。全国の公示価格の平均は、対前年比で▲(マイナス)0.5%と、6年ぶりに下落に転じました。2021年の公示価格とはいっても、1月1日時点のことですので、実質的には2020年の地価の動きと考えてよいでしょう。マイナスではありますが、前年が1.4%、前々年が1.2%のプラスであったことを考えると、それほど大きな下落ではありません。2020年の経済成長率(GDP成長率)は、名目が▲4.0%、実質で▲4.8%でした。コロナ禍で経済が大打撃を受けたことを踏まえると、比較的下げが小さかったと言えるのではないでしょうか。全国の〝平均〟が▲0.5%なのですから、個別で見れば、上昇となった地点も少なくない、と考えられます。

もう少し詳しく見てみましょう。公示価格では、住宅地と商業地に分けてデータを公表しています。全国平均では、住宅地が▲0.4%なのに対して、商業地は▲0.8%と下落幅が大きくなっています。コロナ禍でダメージが大きいのは、飲食業、観光業、小売業です。やはり地価にまでコロナが影響を与えています。もっとも商業地は、それまでの2年間は3%前後の上昇が続いていました。もともと商業地は、住宅地に比べて地価の変動が大きい傾向があります。それに比べると住宅地は、景気が悪ければ低金利で住宅ローンを組みやすい、政府が住宅優遇策を設けるなどのプラスの要因があり、一定の需要があります。前年までは住宅地も上昇していましたが、その上昇は対前年比で1%以内となっており、商業地に比べると上昇でも下落でも、変動が緩やかになっています。

地域別に見てみましょう。三大都市圏(東京圏、大阪圏、名古屋圏)とそれ以外の地方圏を比べると、住宅地でも商業地でも三大都市圏の方が下落は大きくなっています。特に下落が大きいのは、大阪圏の商業地です。大阪市、京都市は前年が10%超の上昇でしたが、今回は▲4.4%、▲2.1%となっています。海外からの訪日客がいなくなったのが影響しているのでしょう。

今回の調査で住宅地が上昇している都道府県は、北海道、宮城県と、福岡県を中心にした九州地方(佐賀県、熊本県、大分県、沖縄県)です。千葉県もわずかにプラスになっています。その他の件はすべてマイナスです。

三大都市圏に次ぐ規模がある地方4市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)は、ここ数年上昇が続いています。今回の調査でも以前と比べるとペースダウンしていますが、それでも比較的堅調です。宮崎県と鹿児島県を除いた九州・沖縄地方も上昇傾向が続いていました。地方での人口減少が言われて久しいのですが、大都市圏よりも、各地方の中核都市が人を集めているようです。これは、コロナの影響ではなく、ここ数年の傾向です。

全国26,000地点のうち、もっとも上昇率が高かったのは、住宅地、商業地とも北海道倶知安(くっちゃん)町です。ニセコと言った方がわかりやすいでしょう。スキー場が外国人に人気となり、海外からの投資が過熱しています。コロナで訪日ができなくなっても、投資だけはおさまっていないようです。住宅地では北広島市(北海道)が次いでいますが、これは新しい野球場の建設が影響しているのでしょう。商業地では福岡市が次いでいます。

新型コロナの影響は、商業地では小さくないのですが、住宅地ではそれほど明確な変化はありません。リモートワークが増えた影響で、都市部から郊外へ住まいを移す人が増えているとも言われましたが、地価に影響を与えるほどではありません。千葉県の上昇でも特徴的な傾向は見えません。リモートワークで、逗子や藤沢などの湘南地区が注目されている、といった報道もありましたが、これらの地域でも地価は若干下落しています。

2021.4.27記

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