マンションの相続税評価額の変更(前半)

近年、マンションの価格上昇が止まりません。不動産経済研究所の調査では、2023年3月の首都圏の新築分譲マンションの販売価格の平均が1億4,360万円となりました。さらに、東京23区では、2億1,750円が〝平均〟となっています。マンションの購入といえば、初めてマイホームを購入する若い子育て世代を想像しますが、こんなに高い価格では手が出ないでしょう。数億円もする、都心部にある一部の超高級マンションが平均価格を引き上げているようです。このようなマンションを購入できるのは、主に富裕層といわれる人たちで、購入の目的も「相続税の節税のため」だったりします。実はここ数年、子供たちにかかる相続税を少なくするために、マンションを購入する人が増えているのです。特に、タワーマンションと言われる、高層マンションは、実際の価格と相続税を算出するための評価額の差が大きい傾向があります。その差が大きいと、将来相続した家族が負担する相続税の金額が少なくなります。タワーマンションなどでは、実際の価格に比べて、相続税の評価額が3分の1程度となることもあり、節税効果が大きいので富裕層が子どものために相次いで購入しているようです。

相続税は亡くなった人の財産の金額に応じて高額になりますが、節税策によって相続財産が多いにもかかわらず、相続税が少なくて済むわけです。脱税ではなく、〝節税〟ですので、違法行為ではありません。きちんと国税庁が決める規定に基づいて計算しているわけで、悪いことではなく、不動産業者や金融機関が積極的にアドバイスしている面もあります。

相続税は亡くなった人が遺した財産に対してかかる税金です。預貯金などはその残高がそのまま相続税算出の基準となっていますが、不動産は人によって見方が分かれるため、国税庁が評価の方法を定めています。それが、実際の価格と大きくかけ離れているとしたら、その評価方法がおかしいのかもしれません。

国税庁は、2024年1月1日以降に亡くなった人の相続から、マンションについての評価額の算出方法を変更することにしました。これは法改正ではなく、国税庁の通達を変更することで実施しますので、素早く行えます。現行の計算方法に比べて、相続税評価額がかなり上昇するケースもあります(すると相続税は増えます)。すでに節税策としてマンションを購入した場合でも、今年(2023年)中に亡くならなければ節税策にはならず、アテが外れた人も多いのではないでしょうか。どのように変更されたのか、見てみましょう。

まず、不動産の場合の相続税の評価額を確認します。不動産のうち、建物は固定資産税評価額を使います。つまり、固定資産税を計算するために使う評価額を、そのまま相続税の計算にも使います。土地については、市街地では路線価というものを使います。道路一本一本ごとに1㎡の価格が付けられており、その道路に面する土地は、その価格に土地の面積をかけて算出します。道路に付いている価格、路線価は近隣の不動産の取引価格を参考にしながら、国税庁が決めています。税金の計算に使う価格ですので、慎重に控えめに決めており、一般に市場価格の8割程度の価格と言われています。マンションの場合は、マンションの敷地をそのマンションの住民が共同で保有していることになります。よって、持ち主の保有している土地は、マンションの敷地に対して、持ち分をかけた分と考えます。持ち分は、部屋の面積に応じて決められており、購入した時点で「敷地権割合」が登記されています。よって、相続税評価額はこのようになります。

 

マンションの土地の相続税評価額=路線価×マンションの敷地面積×敷地権割合

 

高層マンションでは、敷地に余裕をもって建てられていますが、それでも一定の建物の面積に30階、40階と部屋が入っていますので、1つの部屋の敷地権割合はかなり小さくなります。ということは、高層マンションの一室を保有している人の土地の評価額はかなり小さくなります。さらに、高層マンションでは、高層階は低層階に比べて価格が高いのが一般的です。ところが、この式には敷地権割合しか反映されておらず、何階にあるのかは考慮されていません。すると、高層階の部屋は、市場価格が高いにもかかわらず、相続税の評価額は低い、ということになります。このことが、相続税の節税対策をしたい人には好都合だったのです。

今回の改正では、一定の式で「おおよその市場価格」を推計することにしました。上記で計算した相続税評価額が、「おおよその市場価格」の6割以上であれば、今までどおりの相続税評価額を使います。6割よりも低くなっている場合は、6割程度になるように相続税評価額を修正します。高層マンションなどでは、相続税評価額が市場価格の半分以下となっているケースが少なくありませんので、そのような場合は、修正してください、ということです。

具体的な計算方法については、次回にご紹介いたします。
「マンションの相続税評価額の変更(後半)」になります。

2023.10.30記

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