来年度の税制改正要望

先日、来年度(2022年度)の税制改正要望が出揃いました。各省庁は、政策を推進するために、税金を優遇する施策などを行っています。税金を優遇すれば、その制度を利用する人や企業が増えるからです。ただ、税金を優遇すると、その分税収が減ることになり、それは国の予算にも影響します。そこで、各省庁が希望を出した上で、税収の減り具合を考慮しながら、財務省と交渉することになります。税金の改正は、国の予算案と表裏一体となっているわけです。

一般的な流れとしては、今後財務省との交渉を経て、与党税制調査会で審議されます。与党税制改正大綱としてまとまると、それがおおむね政府の税制改正案となり、国会で審議されます。来年度予算の採決とともに可決されると、税金の制度が変更されることになります。

というわけで、国土交通省が提出した税制改正要望から住宅取得に関わる改正部分を見ていきます。まだ紆余曲折はありますが、これが来年度の税制改正の基本となります。

※細かい条件等については省略して記載します。

 

  • 自宅を買い替えた場合の売却益の繰り越し

自宅を売却して住み替えることはよくあります。売却した自宅が値上がりしていて、値上がり益がある場合は税金がかかります。税金の支払いを考えると、売却代金を住み替えの購入代金に全額充てることができません。そこで、購入代金に充てる分については、売却による値上がり益がなかったことにする制度を設けています。その分に税金がかからない優遇です。(ただし、購入した自宅を将来売却する際に、今はなかったことにしてくれた値上がり益を考慮します。よって減税というよりは、将来への利益の「繰り延べ」となります。)

昭和57年に設けられ、14回延長が繰り返されてきましたが、今年の年末に期限を迎えますので、また2年延長する改正です。

 

  • 自宅を売却した場合の損失を他の所得と通算する

同じく住み替えで自宅を売却する場合で、値下がりで売却損となる場合もあります。その際の優遇制度です。副業などをしている場合はその事業が赤字となったら、給料などの収入と合算して確定申告をすると、所得税が少なくなります。しかし、不動産の場合は売却で損失が生じても、給料と合算することはできないようになっており、所得税を減らすことはできません。ただ、住み替えで自宅を売却した場合だけは、その損失を給料などと合算して、所得税を少なくすることができるようにしたのが、この制度です。損失が大きければ、3年間はマイナスを繰り越すこともできます。この制度も今年の年末に期限を迎えますので、2年延長する税制改正です。

 

  • ローンが残っている自宅の売却損を他の所得と通算する

上記②は、住み替えで新たに自宅を購入することが条件です。新居は賃貸、家族と同居するなどで売却だけの場合は対象になりません。ただ、売却だけの場合でも、まだ住宅ローンが残っている場合は、売却損を他の収入と合算することを認める制度です。売却代金を、残りのローン返済に充て、それでもさらに残ったローンの金額が合算できるマイナス額の限度です。その金額が大きければ、マイナスを3年間繰り越すこともできます。もっとも、売却代金以上のローンが残っているのに、銀行が担保をはずしてくれるのは難しいでしょうから、実際にはあまり使えないでしょう。この制度も今年の年末に期限を迎えますので、2年延長する税制改正です。

 

  • 耐震・省エネなどの改修費用またはローンに応じて減税

自宅を改修した場合に適用される減税制度です。耐震、省エネ、バリアフリー、三世代同居、長期優良住宅にする、などの改修が対象になります。減税方法は2つあります。

  • 改修工事の費用額の10%分の税金を減税する。
  • 改修に住宅ローンを利用した場合に、ローン残高の1%分を、5年間減税する。

この制度も今年の年末に期限を迎えますので、2年延長する税制改正です。

 

  • 登録免許税の割引

不動産を購入したり、自宅を建てた場合には、「登記」をします。登記は、「自分がこの土地の持ち主です」と役所(法務局)に届け出るもので、その時に係る手数料が登録免許税です。法務局では、誰でも自由に不動産の持ち主を調べることができるようになっています。

この税率を安くすることで、不動産売買の負担を減らしています。本来の税率はそのままにしたままで、期間限定で税率を引き下げています。こちらは来年3月末で期限を迎えますので、そこから2年延長する税制改正です。

 

本則(既定の税率)

軽減税率(一般)

同(省エネなど)

所有権保存(新築)

評価額の0.4%

同0.15%

同0.1%

所有権移転(売買)

同2.0%

同0.3%

同0.1-0.2%

抵当権設定

同0.4%

同0.1%

同0.1%

 

 

住宅取得に関する改正点は、いずれも目新しい制度ではなく、〝今ある制度を延長する〟というものです。景気が悪い時などに住宅購入を促進するため、税率を引き下げる措置を取ることがあります。その際、元々の税率はそのままにして、「今だけ一時的に減税します」という形にします。時限的にすることで、購入を促すキャンペーン効果を狙います。期間が終了したら、元に戻す(実質的に増税となる)ことで、お得感が感じられます。

ただ、期限が来たら、また税制改正で延長をして、優遇期間を延ばすということが多くあります。2年ごとに延長して、10年以上も優遇キャンペーンを続けている制度も少なくありません。来年度の税制はそのようなものばかりとなっており、「変わらない」ための改正という感じです。

2021.9.5記

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