住宅ローン減税の変遷

「住宅ローン減税」は「住宅ローンがある人に対して、所得税を減税する」という制度です。福祉的な意味がまったく無く、個人の選択で税金を安くできるという税本来の理念からはかけ離れた減税です。あくまで「一時的」な制度ですから、数年おきに制度が変更されながら延長され、結局44年間も続いています。44年も続くと、恒久的な制度のように感じられます。現在の制度での適用も間もなく終了します。来年度はまた形を変えて存続しそうな状況です。(これから検討されますので、内容はまだわかりません。)

今回は、この減税制度の歩みを振り返ります。

 

 

Ⅰ.住宅ローン控除の誕生前後

  • 1972年(S47):「住宅取得控除制度」の創設。住宅の床面積に応じて税金を安くする税額控除でした。〝住宅を購入した人に対して減税をする〟という制度はそれまでありませんでした。当時はドルショックによる不況でしたので、景気対策として導入されたようです。ただ、それから過剰流動性による土地価格の高騰が起きました。
  • 1978年(S53):住宅ローンの年間返済額の5%相当の所得税を減税する税額控除を設けました。住宅ローンの建物部分に限り、年間返済額から30万円を差し引くものの、実質的な「住宅ローン減税」の始まりと言ってよいでしょう。減税期間は3年でした。

 

Ⅱ.住宅ローン控除の拡充

  • 1986年(S61):新設された「住宅取得促進税制」は、住宅ローンの「年末残高」の1%に相当する額の所得税を減税する税額控除です。ローンの年末残高を基準にするなど、今まで続く制度の原型となりました。もっとも、減税期間を6年に拡大しました。
  • 1989年(H1):消費税の創設(3%)
  • 1993年(H5)~1998年(H10):この6年の間に、7回の制度改正が行われています。財政規律を崩すという反対を受けながらも、景気刺激策として拡大されました。この頃から、景気対策としての性格を強めていきます。
  • 1997年(H9):消費税3%→5%
  • 1999年(H11):「住宅ローン税額控除制度」とされました。初年度は最大50万円の減税で、減税期間は15年、合計で最大5万円の減税となりました。減税額がもっとも大きくなったのがこの時期です。
  • 2001年(H13):「住宅ローン減税」として、年間50万円までで期間は10年、合計で最大500万円の減税となりました。この形が定着することになりました。

 

Ⅲ.縮小と拡大の繰り返し

  • 2004年(H16):5年間で段階的に減税規模を縮小することになりました。その代わり、耐震構造、省エネ、バリアフリーなどで一定の基準を満たした住宅については、規模を大きくしました。住宅政策が、量の追求から質の追求に変化したと言えます。
  • 2008年(H20):リーマン・ショック。世界的な不況。
  • 2009年(H21):2004年の縮小計画は反故となり、再び拡大しました。最大年50万円で、10年間の減税に戻しました。その後には徐々に規模が縮小するようにしています。
  • 2014年(H26):消費税5%→8%
  • 同年:縮小計画はまた反故になり、最大年40万円へと再拡大されました。
  • 2019年(R1):消費税8%→10%
  • 同年:購入する住宅の消費税率によって減税額に差を設けました。消費税率10%の物件を購入した場合は、最大年50万円となり、減税期間も10年から13年に拡大されました。
  • 2021年(R3):注文住宅は9月30日、新築住宅の購入は11月30日の期限をもって、廃止されます。
    • 国土交通省は、来年度の税制改正要望に、住宅ローン減税を入れていません。1978年から形を変えながらも44年間続いた臨時の減税制度は、とうとう消滅することになりました。

 

不動産の価格の推移を見ると、1985年(S60)から1989年(H1)にかけてのバブル期に急上昇し、その後は2003年(H15)までは下落が続きました。2006年(H18)頃から首都圏のマンション価格が上昇し始め、それは今でも続いています。2019年(R1)には、首都圏のマンション販売価格の平均が5,980万円と、2003年(H15)の約1.47倍にまで上昇しています。

戸建てや地方など、不動産価格のすべてが上昇しているわけではありません。「高い物件を購入してローンを大きく組むと税金が安くなる」という住宅ローン減税の特徴が、高い物件の価格をさらに押し上げた面はあるでしょう。減税のために、あえて頭金を減らしてローンを大きく組むという人も少なくありません。住宅ローン金利が1%を割り込み、減税となるどころか、益税が発生しています。景気刺激策としても、すでに時代にそぐわないものとなってしまったようです。

2021.11.18記

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