コロナ後の住宅市況を占う

前回(2020年.12.20「コロナ禍の不動産市況」)でご紹介しましたが、コロナ禍の中、住宅用の不動産市況は活況となっています。まず、リモートワークの広がりで、郊外の住宅地に移り住む人が増えました。通勤が週1、2回に、あるいはほとんどなくなり、通勤に便利な都心近くに住む必要がなくなりました。逆に自宅に仕事用の部屋が必要になり、間取りが欲しくなりました。そのため、都心の駅近のマンションから郊外の一戸建てに移り住む動きができました。その一方、利便性が高い都心部のマンションも売れています。リモートワークが普及したとはいっても、通勤が必要な人は多く、便利な駅近のマンションを探す人も増えています。さらには、収益を求めて投資用の住宅を物色する法人や投資家も増えています。結局、郊外も上昇、都心部も上昇、全てが上昇という状況です。

その根本的な要因は、未曽有の低金利です。住宅ローンが組みやすくなっているところに、コロナ禍で自宅を見直す必要が生じ、多くの人が自宅の購入へと踏み切ったようです。もともとの「不動産を購入しやすい」環境があり、そこにコロナ禍がきっかけになったようです。

都心部を中心に、緊急事態宣言が再び発令され、飲食業や観光関連産業などは大打撃です。飲食店の閉店が相次ぎ、店舗需要は激減しています。さらに景気も悪化していますので、オフィス需要も減少しています。リモートワークの浸透で、オフィスを返上する企業も増えています。今の不動産市況は、店舗、オフィス需要が激減する中、住宅需要だけは活況という状況です。

もともと、店舗、オフィスなどの商業需要は、景気の影響を強く受ける傾向があります。それに対して住宅は、比較的景気の影響を受けにくい面があります。もちろん、景気の影響を受けないわけではないのですが、商業需要に比べるとその変動が緩やか、あるいは景気の波とタイミングがずれるという特徴があります。

理由を考えてみましょう。まず、景気が良いと

  • ボーナス増などで収入が増えて、自宅を購入しやすくなります。今後の収入増の期待も膨らみ、ローンを組むことへの不安が少なくなります。

これはとても大切な点ですが、その他にはあまり要因がありません。対して、景気が悪いとどうでしょうか。

ボーナス限などで収入が減り、今後の見通しにも不安になるため、ローンを組んで自宅を購入することに慎重になります。しかし、

  • 金利が低下して、住宅ローンを組みやすくなります。
  • 政府が景気刺激策として、住宅購入を促進するための減税や費用補てんなどの優遇策を打ち出します。
  • 不動産価格や建築資材が落ち着いており、物件価格が購入しやすくなります。

景気が悪い方が、メリットを多く挙げられます。つまり、収入が安定的な人にとっては、景気が悪い方が、住宅を購入しやすいということが言えます。

コロナ禍で、飲食店や観光産業、運輸業界は大打撃です。これに関連する業種も含めて、収入減となった人はかなりいます。しかし、その一方、収入増あるいは収入にあまり変化がない人も少なくありません。コロナ禍でかえって需要が増えた業種もありますが、そうではなくても、目立って収入に変化がない人はけっして少なくない、あるいはかなりいるのではないでしょうか。緊急事態宣言が発令され、外出がかなり抑えられた昨年4-6月期は、特別定額給付金の支給などもあり、国民所得が増えている、というデータもあります。

そういう人は、昨年4-5月頃はさすがに控えていましたが、6月から自宅の購入に動き出したようです。この流れは、当分の間は変わりそうもありません。低金利はまだしばらくは続きそうです。政府による住宅購入のための優遇策は、消費税を10%に引き上げた際に強化されました。その後、徐々に縮小していく予定でしたが、コロナ禍でその多くが延長される予定です。住宅用の不動産市況は、当面は活況が続くと思われます。郊外、都心に関わらず、不動産価格は上昇が続いていくでしょう。「コロナ禍」という要素よりは「超低金利」という要素の方が大きく影響していますので、郊外でも都心部でもあまり関係なく、ともかく住宅価格が上昇するわけです。

ただ、いつまでもこの状況が続くわけではありません。

すでに住宅ローンを組んでいた人で、コロナ禍で大きく収入が下がった人の中には、返済が難しくなっている人もいます。滞納が6ヶ月続くと、一括での返済を迫られるようになり、自宅を差し押さえられてしまう可能性があります。その前に返済の猶予や返済条件の見直しの交渉をしている人も多いかと思われますが、それでも1~2年後には、債務不履行で売りに出される物件が増えてくるでしょう。景気の回復が遅れると、商業用も含めて不動産の受給が悪化していきます。

一方、コロナ禍が早く終息し、景気の回復が早まると、金利が上昇するようになります。変動金利で住宅ローンを組んでいる人の中には、返済額が上昇して、返済が難しくなる人も出てきます。住宅ローンを組むのも慎重になり、住宅需要は減少することが考えられます。

いずれも、1~2年後ぐらいには状況が変わってくるのではないでしょうか。

忘れてはならないのは、基本的に日本は人口減少が続いており、住宅の需給は少しずつ悪化する傾向になります。さらに国民所得も減少傾向で、そもそも自宅を購入できる層は限られてくるかもしれません。投機的な傾向も踏まえた上で、〝当面の間〟は活況が続くと考えた方がよいでしょう。

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