地価が下がらないエリア

不動産の〝専門家〟は「自宅を買うなら、地価が下がらない物件にしなさい」と言うことが多いです。将来的に自宅を売却することになった際に、良い価格で売れるように、ということです。不動産の価格は、1989年のバブル崩壊以降、20年以上ほぼ下落が続いていました。ここ数年はようやく下げ止まり、回復の兆しが出てきました。しかし、今後も日本は人口減少が続くものと予想され、地価は下落もしくは低迷が続くものと見られています。

それだけに、20年、30年後に自宅を売却することになったら、地価が値下がりして、売却価格が下がっていることが考えられます。建物部分は、経年劣化で価格が下がるのはやむを得ませんが、地価も下がるとなると、損失となります。

ただ、地価の動向はどこも同じではなく、地域やエリアによって違いもあります。「値下がりが大きい地域」もあれば、「値下がりしていない地域」や「値上がりしている地域」もあります。売却する際に地価が上昇していれば、それに越したことはありませんが、そこまで行かなくても、少なくとも値下がりしていなければ損失にはなりません。自宅を購入する段階から、値下がりしにくい地域、エリアを選んでおけば、将来売却の際に損失とならないですむので良い、というわけです。

「将来、売却する際に困らないように、値下がりしにくい地域、エリアで自宅を購入しましょう」と、不動産の専門家は口を揃えます。そんなことはわかるのでしょうか?

常に価格変動に直面している株式の投資家に言わせれば、「それがわかれば苦労はしない」ということになります。値下がりしない銘柄がわかれば、株式投資で損をすることはありませんが、それができないからみな、損失を抱えるのです。将来値上がりする銘柄が事前にわかれば、その時点で多くの投資家が買いますから、すぐに株価は上昇してしまい、将来になるまでもなく、すでに高い株価になってしまいます。その結果、その時点が「もっとも高かった」なんていうことは珍しくありません。

ところが不動産の専門家は、将来の地価の動向が事前にわかると言うわけです。では、どのような土地が「将来値下がりしない土地」で、購入するとよいのでしょうか?

それは、「駅近」で、利便性が良い場所だそうです。

「駅近」で、利便性が良い場所なら、いつの時代も常に需要があり、値下がりすることがないそうです。一方、環境が良くても、駅から離れていて(あるいはバス利用で)、利便性が劣るエリアは、需要の減少が見込まれ、今後地価が下がっていくそうです。地方と都心の比較で言えば、都心が良いといいうことになります。

株式の投資家に言わせれば、それがわかっているのなら、すでに将来の変化を織り込んだ動きになっているはず。利便性が悪いエリアや地方は、将来の値下がりを考慮してすでに値下がりした価格になっているはずですので、状況の変化がなければ、これからさらに値下がりするわけではありません。利便性が良く、需要が続くエリアであれば、将来の人気も織り込んだ割高な価格に、すでになっているわけで、状況の変化があれば、予想外に値下がりする可能性もあります。

実は今、新型コロナの影響で、不動産価格の傾向が大きく変わるのではないかとの見方が出てきています。「駅近や都心なら値下がりしない」とは言えなくなりそうです。

ご承知のように、緊急事態宣言が出されてから、テレワークが一挙に広まりました。緊急事態宣言が解除されてからも、テレワーク導入の傾向は変わりありません。これを機に、日本の働き方が見直されているようです。ネット環境さえあれば、自宅でも仕事ができるようになり、将来はこのような働き方が一般的になっているかもしれません。もちろん、店舗営業や介護・医療など、人対人の仕事はそうは行きません。しかし、少なくとも、東京都心のオフィスで働く仕事は減少していくでしょう。すると、東京都心部への通勤が必要な人は減少していくものと考えられます。

逆に自宅で仕事をするようになると、自宅にワーキングスペースが必要になります。自宅は寝に帰るだけの場所ではなくなり、仕事をする場にもなります。夫婦共働きであれば、それぞれの仕事用に一部屋欲しいところです。すると、自宅に求められる要素も、「利便性」から「スペースの確保」や「間取り」が重視されるようになるかもしれません。

実はかつて、バブル崩壊前ぐらいまでは、「スペースの確保」や「間取り」が重視されていたのです。子どもそれぞれに部屋が確保でき、近隣に公園や自然が残っている郊外のエリアが人気でした。ところがその後、少子化と夫婦共働きが進み、スペースよりも利便性が求められるようになったのです。「値下がりが大きい地域」と「値下がりしていない地域」が生じたのです。利便性が劣る、駅から離れた郊外は、地価の値下がりが続きましたが、それは元からわかっていたことではなく、状況の変化によるものです。「駅近」や都心部は地価が値下がりしていませんが、以前は「子育てには環境が良くない」とそれほど評価されていなかったのです。最近でこそ利便性の高い駅近や都心部に高級マンションが相次いで建設されていますが、それは最近の傾向であり、20年、30年前からのことではありません。

今また、働き方の変化によって、「スペースの確保」や「間取り」が重視され、住環境が良い郊外、駅から離れたエリアが評価されるようになるかもしれません。すると、今すでに価格が高い「駅近」で、利便性が良い場所の地価も将来値下がりしないとも限りません。

もちろん、これからテレワークがどのくらい定着するかは、まだまだわかりません。不動産についても、「スペースの確保」や「間取り」よりも「利便性」が重視される状況が続くかもしれません。ただ、言えることは20年後、30年後のことは簡単にはわからない、ということです。技術革新、社会環境の変化によって、自宅に求められる要素は、大きく変わるかもしれませんし、変わらないかもしれません。少なくとも言えるのは、不動産の専門家の見方は、それほど先を見ているわけではなさそうです。

2020.6.7記

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