日銀総裁と住宅ローン

日本銀行の総裁に植田和男氏が就任しました。おおかたの予想を覆して、経済学者が選ばれました。日銀総裁に経済学者が選ばれるのは初めてのことです。もっとも海外では経済学者が中央銀行トップになることは珍しくありません。アメリカの前のFRB(中央準備理事会)議長のイエレン氏(今は財務長官)、その前のバーナンキ氏(1月号でご紹介したノーベル経済学賞受賞者)、そして欧州中央銀行の前の総裁のドラギ氏も経済学者です。

植田氏がどのような考えの方か、詳しくは存じません。ただ、「リフレ派」とか「反リフレ派」といったように明確な色分けがされている人ではありませんので、バランス感覚を持った方のようです。以前に日銀審議委員も務めていましたので、理論だけでなく実務にも詳しいでしょう。

審議委員をしていた2000年、少し景気が回復に向かってきたのでゼロ金利を解除することが検討された際に、植田氏が反対票を投じたことが語り草になっています。採決の結果、日銀はゼロ金利を解除(金利は上昇)しましたが、その後に再び景気が悪くなり、「早すぎた」と批判を浴びました。結果的に植田氏の判断が正しかったことが証明されました。

日銀は黒田総裁の下、「ゼロ金利政策」と「イールドカーブコントロール」を続けてきました。最近では弊害も指摘されるようになり、方針転換をするかどうかの岐路に立たされています。「ゼロ金利政策」は短期金利をゼロまたはマイナスとする政策で、金利がマイナスになるという異常事態が続けられています。「イールドカーブコントロール」は、長期金利を抑える政策です。市場で国債が売られると、長期金利は上昇します。そのため日銀は市場で売りに出された国債を買い支えています。すでに国債の半分以上を日銀が保有する状態になっており、これも異常事態です。ただ、日銀が金融緩和を止めると、景気が冷え込んでしまうのではないかとの懸念もあり、難しいところです。

1月の消費者物価上昇率は4.3%にもなりました。日銀は2%になることを目標にしてきましたので、すでに上回っているのですが、先日の国会での所信聴取で植田氏は、今年は物価上昇率が下がるとして、金融緩和の継続の必要性を述べています。これが本心からなのか、それとも市場に不安を与えないようにするための方便なのかはわかりません。市場では植田氏の総裁就任後、早々にイールドカーブコントロール(国債の買い支え)を止めるのではないか、との見方で疑心暗鬼になっています。

日銀の金融政策は、住宅ローンの金利にも影響します。金利がかなり上昇すると、長期金利よりも短期金利の方が高くなる場合があります。すると、住宅ローンでは固定金利よりも変動金利の方が高くなるといいうことになります。変動金利は予想外に大きく変化する可能性があるということは考慮しておいた方がよいでしょう。現在、住宅ローンは固定金利よりも変動金利の方が低いのですが、変動金利を選ぶ場合は、金利が上昇した際にどう対応するかを考えておく必要があります。

2023.4.17記

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