ウクライナ侵攻の物価への影響

ロシア制裁はポーズだけ

ロシアによるウクライナ侵攻が始まって2ヵ月。凄惨な映像を見るにつけ、心が痛みます。当初は、圧倒的な軍事力を持つロシアが短期間で制圧するのではないかとも思われましたが、ウクライナの反撃を受けロシア軍は苦戦し、戦闘が長引きそうな状況です。

ロシアにとっては、ウクライナの執拗な反撃もさることながら、西側諸国が一致団結して抗議を表明し、厳しい経済制裁を果たしたことで苦境に陥っているとされています。

厳しい経済制裁によってロシアでは物不足に陥り、国民の間ではすぐにも反戦運動が広がるような報道がされました。しかし、「ロシアへの対抗措置を実施した」というアピールをするための部分が大きく、実際の内容は抜け穴だらけでした。いち早く打ち出された制裁措置は、ロシアの主だった金融機関をSWIFT(スイフト)という国際決済システムから除外するということでしたが、ロシア最大の銀行であるズベルクバンクは除外の対象にはなりませんでした。ロシアへの支払いができなくなると困るからです。また、EUは「エネルギーのロシア依存をゼロにする」と打ち出しましたが、これは「10年以内に」という話です。さらに、日本も含めて西側各国が、ロシアに対する関税の最恵国待遇を撤回すると表明しましたが、関税引き上げは輸入する自国民への課税ですので、効果のほどがしれます。アメリカが厳しい経済制裁を打ち出していますが、そもそもアメリカとロシアの貿易はそれほど多くはありません。

そもそも、経済制裁はどれほどの効果があるのか微妙なものですし、その効果が出てくるのには時間がかかります。ロシアのスーパーで棚が空になる映像が放映されましたが、物不足を心配した市民が買い占めをしたためで、一時的なものでした。ロシアの通貨ルーブルが大幅に下落しましたが、それも一時的で今は元に戻っています。ロシア中央銀行の外国資産が凍結され、ロシア国債が一部デフォルトと認定されました。今後ロシアが外国で国債を発行するのが難しくなりますが、今すぐロシアが困ることはありません。そもそもデフォルトで困るのはロシア国債を保有している外国(西側)の投資家です。

西側諸国としては「自分の国に影響が出ない範囲で制裁をしたい」というのが本音です。ロシアのような資源国相手では、経済制裁をすると自国への影響の方が大きくなります。天然ガス、石油、石炭の輸入を止めないということは、ロシアへの送金も続けるわけで、制裁の効果は限られます。(ロシアの輸出額の約半分は、天然ガス、石油、石炭などの鉱物性燃料です。)特にドイツは、原子力発電と石炭発電の廃止を進めており、ロシアから輸入する液化天然ガスが頼みの綱となっています。ロシアからのガスパイプライン「ノルドストリーム2」の稼働停止を発表しましたが、これはまだ稼働前なのでできました。

 

国民に負担を強いても

こんな及び腰の制裁でしたが、キーフ周辺からロシア軍が撤退し、一般市民への虐殺が行われたのが発覚すると、西側諸国の方針が変わってきました。特に経済制裁に及び腰と言われていたドイツが本気になりました。石炭は今年中に、石油は来年、天然ガスも2年後までにロシア依存を「ほぼ脱却する」と明言しました。原子力や石炭の廃止を先送りにするようですが、それでも電力料金の値上げは避けられません。国民に負担を強いても、ロシアへの制裁を強化することに踏み切りました。

日本も4月8日に岸田首相が、ロシアからの石炭輸入を段階的に削減する方針を示しました。ただ、時期は明言していません。逆に石油・天然ガスの開発プロジェクトである「サハリン1・2」からは撤退しないと明言しています。「G7各国と足並みを揃える」と言いながらも、実は及び腰です。

日本がロシアからの輸入を制限すると、電力供給に大きな影響を及ぼします。右図は日本の電力をどの資源で賄っているかの構成比です。(日本の電源構成比2020年)

もはや石油の比率はかなり小さくなっており、天然ガスと石炭で63%を占めています。(LNGは液化天然ガス)

そしてこれらの輸入相手国を見ると、天然ガスの8.4%、石炭の14.7%はロシアからの輸入です(2020年実績)。過度に依存しているというほどではありませんが、それでも急に止めることは難しいでしょう。先日(3月22日)、東京電力管内で電力需給がひっ迫する事態が起きました。この時は地震の影響でしたが、ロシアからの天然ガス、石炭の輸入を止めると、これが毎日続くことになりかねません。輸入の代替先を探すと言っても、世界中で同じ事態になるのですから、簡単なことではありません。

2022.5.22記

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