アベノミクスを振り返る③

第2次安倍政権の成果

「アベノミクスで景気回復を実現した」と盛んに言われましたが、スタートダッシュこそ良かったものの、その後はそれほど芳しいものではありません。2014年消費税引き上げの影響が小さくありませんでした。その2014年の成長率は-0.4%でしたが、「景気後退」とはみなされず、景気拡大が71ヶ月続いたとされました。

アベノミクスでもっとも状況が良かったのは株式市場です。安倍氏が自民党総裁になった時点から〝期待〟で相場は上がりだし、8,000円台だった日経平均株価は2018年9月には24,000円にまで達しました。一方、為替相場は円安ドル高に推移し、輸出企業の業績を押し上げました。

2020年になると、コロナ禍で経済は混乱しました。GDPも株価も一時期大きく下落しましたが、すぐに回復に向かいました。

失業率はリーマン・ショックの際に最大となり、その後は一貫して減少しています。民主党政権の時代からすでに減少傾向に転じましたが、第2次安倍政権となってからも、一貫して減少が続きました。力強い景気拡大ではなかったものの、息切れすることなく続いたことで、雇用環境はかなり改善されました。ただ、2019年から改善は息切れするようになり、2020年はコロナ禍もあり、急激に悪化しました。

これによって、貧富の格差は解消に向かっています。株式相場が大きく上昇したこともあり、「アベノミクスによって企業や富裕層は恩恵を受けたけれども、貧富の差が拡大した」と批判されることが多いのですが、データを見る限りは貧富の際は縮小しています。貧富の差の程度の測るのに「ジニ係数」という数値が使われます。0~1の間の数値で表され、大きい方が格差は大きいとされます。厚生労働省では3年ごとに数値を公表しています。

 

当初所得ジニ係数

再分配所得ジニ係数

2005年

0.5263

0.3873

2008年

0.5318

0.3758

2011年

0.5536

0.3791

2014年

0.5704

0.3759

2017年

0.5594

0.3721

 

「当初所得ジニ係数」に対して、税金や社会保障で所得の再分配がなされていますので、それを経た後の所得の格差が「再分配所得ジニ係数」です。2013年から2020年9月にかけてが、第2次安倍政権ですが、「再分配所得ジニ係数」では2014年分から、「当初所得ジニ係数」でも2017年分は数値が低下しているのがわかります。つまり、貧富の差が縮小しているわけです。理由としては、雇用環境の改善で、失業者が減少していることによるためと考えられます。データでは、2020年の数値がまだ出ていません。コロナ禍の影響は、所得の低い人の方が大きいように感じられますが、特別定額給付金がすべての人に一律に給付されています。これによる所得へのプラスの影響は低所得の人の方が大きく、どのように影響しているかは何とも言えません。

景気の拡大が、緩やかながらも長期間にわたって続いたため、雇用環境は改善し、貧富の格差の縮小というメリットももたらしました。

以上、アベノミクスの政策とその効果を見てきました。「アベノミクスは〝新自由主義〟で、一部の富裕層には恩恵をもたらしたが、貧富の格差を拡大した」との批判がしばしばなされます。しかし、実態はむしろ逆で、財政支出を拡大して、貧富の格差を縮小したことがわかります。経済を拡大することが低所得層にも恩恵をもたらしたのです。財政改善についても、消費税の引き上げだけでなく、税率を引き下げた法人税も税収が回復してきて、財政再建に寄与しています。経済政策に限って言えば、かなり〝リベラル〟な考え方だと言えるでしょう。

経済が拡大してきたのは、大胆な金融緩和で為替レートが円安ドル高に推移したことの影響が大きいようです。これによって企業業績は改善しましたが、なぜか次の成長に向けた投資はそれほど増えませんでした。多くの企業が自社株買いで利益率をアップさせましたが、これは言ってみれば、会社を小さくしているようなものです。円安ドル高のおかげで企業業績は良くなったのですが、それが「日本企業を弱くした」と指摘している経済学者もいます。居心地の良い環境に安住してしまったというのです。

民間投資を喚起できなかったのは、規制緩和が十分でなかったからなのか、それとも日本企業にチャレンジ精神が薄れてしまったからなのでしょうか。アベノミクスの評価もこの部分をどう見るかによって判断が分かれてきそうです。

2022.9.12記

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