アベノミクスを振り返る ②

2.機動的な財政政策

この言葉の意味がわかりにくいと思います。端的に言えば、「財政再建は一時棚上げして、財政支出を増やして景気を回復させる」ということです。先に述べましたように、最初の安倍政権では小泉首相の方針を継承しました。それに対して2回目に首相となった際には、はっきりと方針を変更しましたが、それがこの部分です。財政支出を増やすと、景気回復に効果があります。しかし、すでに国の借金は大きく、財政再建が必要です。小泉首相は「改革なくして成長なし」と財政再建を優先しました。それに対して、安倍氏は2度目の挑戦では、はっきりと言葉に表しませんでしたが、財政再建よりも財政拡大を優先する方針を選びました。それがこの言葉の意味なのです。財政拡大で経済が成長すれば、税収が増え、その結果、財政収支が改善してくるという期待もあります。「成長なくして改善なし」という考え方です。

もっとも、2回目の安倍政権になって、急に財政支出が拡大したわけではありません。その前の民主党政権ですでに財政支出が拡大されていたからです。民主党政権では、それまでの自民党政権の財政再建を棚上げして、財政支出を増やしました。第2次安倍政権は、それをそのまま引き継いだと言えるでしょう。

一方税収の面では、民主党政権の最後に与野党合意で消費税を5%から10%に引き上げることが決まっていました。予定どおり、2014年4月に第1回目の引き上げ(5%→8%)が実施されました。税収は増え、財政支出を増やしながらも、財政再建を進めることができました。ただ、消費税引き上げは景気の足を引っ張ることになりました。不況に陥るまでには至りませんでしたが、なかなか芳しくない状況が続き、第2回目の引き上げ(8%→10%)は2回の延期の末、2019年10月でした。第2次安倍政権は、消費税の引き上げに悩まされ続けた7年間だったと言えるでしょう。その半年後にコロナ禍が起き、財政再建どころではなくなってしまいました。

 

3.民間投資を喚起する投資戦略

民間投資をするのは企業です。政府としては、企業が投資を活発に行うように促すことしかできません。その手法としては、規制緩和と税制面での優遇、補助金の交付ぐらいしかありません。規制緩和が1つのポイントになりますが、第2次安倍政権ではTPPへの加入、国家戦略特区の指定などを行いました。しかし安倍氏自身がそれほど規制緩和に積極的ではありません。郵政民営化に反対した自民党議員を相次ぎ復党させたことでわかるように、安倍氏は情に厚いところがあり、この点も小泉元首相とは違います。

規制緩和を徹底できなかったからなのか、それとも他の要因が影響したのか、民間の投資はあまり盛り上がりませんでした。景気はそこそこ良く、企業収益は改善したにもかかわらず、企業はその資金を投資に向けず、もっぱら自社株買いに使ったのです。日本企業は利益率を向上させましたが、事業の成長には及び腰だったのです。

2022.8.12記

質問はこちらから