老人ホーム訪問記③「SOMPOケア ラヴィーレ駒沢公園」

「SOMPOケア そんぽの家 駒沢公園」が改修を経て「SOMPOケア ラヴィーレ駒沢公園」に生まれ変わりました。新装オープンにあたって見学する機会がありましたので、ご紹介いたします。施設の特徴もさることながら、有料老人ホームのマーケティングという面でも興味深い新装オープンです。

最近では有料老人ホームの売却は珍しくなく、運営主体の変更に伴って施設の名前が変わることはしばしばあります。この施設も名称が変わりましたが、どちらも「SOMPOケア」という名称がつくように、経営主体が変わったわけではありません。にもかかわらず、名称が変わったのは、施設のグレードが変更になったためです。低価格を武器にした「そんぽの家」に比べて「ラヴィーレ」は、グレードが一段上になっています。今回の改修を機に、駒沢公園の有料老人ホームのグレードを上げるとともに、料金もアップしました。「SOMPOケア」の戦略を見ながら、有料老人ホームの状況を考えてみたいと思います。

まず先に、「SOMPOケア」についてご紹介しましょう。同社は損害保険会社の損保ジャパン日本興亜の持ち株会社であるSOMPOホールディングスの子会社です。現在「ラヴィーレ」となっている施設を運営していたのは居酒屋チェーンのワタミでしたが、2015年に買収し、SOMPOケアネクストとしました。「そんぽの家」を運営していたのはメッセージという会社でしたが、2016年に買収し、SOMPOケアメッセージとしました。2年連続の買収で、SOMPOグループは一躍、老人ホーム業界の最大手になりました。2018年には両社を統合してSOMPOケアとしました。合わせて、在宅介護のジャパンケアサービスなども買収して統合しています。SOMPOグループは、保険事業以外の分野を経営の柱に育てるために、買収攻勢をかけて、介護の分野に橋頭保を築いたのです。

有料老人ホームを運営する2社を買収したわけですが、2つの施設は、まったく違ったカラーを持っていました。ワタミが運営していた施設は、中の上クラスをターゲットとしていました。居酒屋経営のワタミが運営することで「おいしい食事」を売りにしていましたし、入居者の満足度を高める誠心誠意の介護をモットーとしていました。
一方、メッセージが運営していた施設は〝安さ〟を売りにしていました。首都圏にありながらも、特別養護老人ホームに引けを取らない価格設定で、業界では異色の存在でした。その代わり、サービスについてはある程度目をつぶる必要がありました。

この2社を買収しただけに、SOMPOホールディングスの傘下となっても、会社は別々で、まったくカラーが異なる状態が続いていました。バックオフィスを統合し、共同の研修施設を設けるなどして両社の統合を進め、2年後にようやく1つの会社となりました。介護職員の研修施設が同じになったこともあり、少しずつカラーも近づいてきているように思います。しかし、以前の頃からの入居者がたくさんいるため、料金体系を同じにすることはできません。「ラヴィーレ」「そんぽの家」という別ブランドで格差をつけています。

複数のブランドを併存している運営会社はほかにもあります。多くの老人ホームを運営しているベネッセケアは6つものブランドを併存しています。(やはり買収の関係です。)高価格の施設と低価格の施設の両方を1つの会社で運営することで、見込み客の予算に合わせた施設をお勧めすることができます。SOMPOケアも2つのブランドを併存して、あえて価格差をつけたまま運営するようにしたのです。

駒沢公園のホームは、「そんぽの家」でした。世田谷区という土地の高い場所ですので、特別養護老人ホーム並みとはいかないのですが、それでも周辺のホームと比べると価格を抑えていました。低価格が〝売り〟の施設ですので、充実したサービスよりも価格を抑えることを優先していました。この辺りは比較的高級なホームが多いため、「そんぽの家」の価格優位性は高かったものと思います。近隣の住民で、特別有料老人ホームにはなかなか入れないものの、資金的な余裕がそれほどない人にとっては入居しやすい施設だったのではないでしょうか。

しかし、入居の状況はそれほど芳しいものではなかったそうです。場所も料金も申し分ないのに、苦戦していたようです。会社は原因を分析した結果、ホームのグレードを上げ、料金も上げることにしました。場所柄を考えると、料金が高くなっても、サービスを良くして、中の上クラスにグレードアップした方が入居者を獲得しやすいと判断しました。この地域(世田谷区)は、ある程度の資産を保有する高齢者が多いためです。また、駒沢公園のホームは「そんぽの家」の割には料金が高く、低料金を求める人は郊外のホームを探す、ということもあったのでしょう。料金が安ければ入居者が集まるというものでもなかったのです。

アップグレードの効果は、これから徐々にはっきりしてくるでしょう。「料金が高い方が、希望者が増える」という〝経済原則〟と逆のことが、老人ホームの分野ではありえるようです。料金が高い方が、入居者または家族の安心感につながりやすいのです。もちろんサービスもアップしますが、サービスの内容よりも価格帯の変更の方が、訴求ポイントになっているのではないでしょうか。

同ホームでは、すでにいる入居者はそのままに改修工事を行い、内装をきれいにしました。なお、以前からの入居者の料金はそのままです。新しい入居者の料金は、5年間入居の場合で2,766万円となります。支払い方法は3種類から選べ、5年間の入居でいずれも同じ金額となります。

 

前払い一時金

月額料金

前払いプラン

1,800万円

16.1万円

併用プラン

900万円

31.2万円

月払いプラン

なし

46.2万円

世田谷という土地柄だと、低料金を売りにするよりも、多少料金が高くても、充実したサービスや安心感を売りにした方が、選択されるようです。

<データ>

  • 常勤換算介護職員割合 5:1
  • 看護師の配置 日中のみ駐在
  • 場所 東京都世田谷区
  • 5年間の費用概算 2,766万円
  • 部屋数 30室(30名)

2020.2.9記

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